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犬の芸一覧22種類|簡単な順の教え方と、小型犬にやらせない芸
公開日:2026年8月7日(金) 更新日:2026年10月6日(火) 初めて飼う
この記事の要点
- 犬の芸は、どれも「おやつで体を誘導する→できた瞬間に合図を出す→おやつを手から消す→言葉を付ける」の同じ型で教えます。
- 22種類を簡単な順(前提の動作が少ない順)に一覧にし、お手・おまわり・バイバイ・あごのせ・ゴロンなど芸ごとの違いを書きます。
- 小型犬には、ちんちん(後ろ足で立つ)とジャンプは教えません。
- 膝と腰に負担がかかるからです。
「お手はできるけれど、次に何を教えればいいのか分からない」「おまわりを教えたいのに、おやつを追わずに座ってしまう」「バイバイってどうやって教えるの?」。犬の芸(ドッグトリック)についてのご相談は、お迎えのあとの生活が落ち着いて、基本のしつけが一段落した頃に増えてきます。
先に結論を書きます。犬の芸は、どれも「おやつで体を誘導する→できた瞬間に合図を出す→おやつを手から消す」という同じ型で教えます。芸ごとに違うのは、おやつをどこへ動かすかだけです。この記事では、22種類の芸を簡単な順に一覧にし、共通の型を1回だけ書いてから、芸ごとの違いを書きます。あわせて、うちで紹介している小型犬にはやらせない芸・短くとどめる芸があるので、それも膝と腰の話として先に書いておきます。
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子犬を見る犬の芸一覧|22種類を簡単な順に並べました
芸の「難しさ」は、動きの派手さではなく、その芸の前に何ができている必要があるかで決まります。たとえば「ゴロン」は「ふせ」ができていないと教えられませんし、「バイバイ」は「お手」の応用です。下の一覧は、前提になる動作が少ない順に並べています。上から順に教えれば、前の芸が次の芸の土台になります。
「体への負担」の列は、うちで扱っているトイプードル、チワワ、ダックスフンド、ポメラニアン、マルチーズなどの小型犬を前提に書いています。理由は後半の「やらせない芸・短くする芸」に書きます。
| 芸 | 前提になる動作 | 教え方の種類 | 体への負担 |
|---|---|---|---|
| 1. お手 | おすわり | キャプチャ(自分から前足を出した瞬間をとらえる) | ほぼ無し |
| 2. おかわり | お手 | お手と同じ。反対の手を出す | ほぼ無し |
| 3. ハイタッチ | お手 | お手の手のひらを縦にする | ほぼ無し |
| 4. タッチ(鼻で手に触る) | 無し | キャプチャ。あとで「行く先」を教える道具になる | 無し |
| 5. おまわり(スピン) | 立った状態 | 誘導(おやつで大きくゆっくり円を描く) | 膝に注意。1回ずつ・ゆっくり・滑らない床で |
| 6. あごのせ | おすわり | 誘導+キャプチャ | 無し。診察や爪切りにも役立つ |
| 7. キス | 無し | キャプチャ(頬や手の甲を舐めた瞬間) | 無し |
| 8. バーン(横に倒れる) | ふせ | 誘導(鼻先から肩へ) | 無し |
| 9. ゴロン(一回転) | ふせ・バーン | 誘導(肩から背骨へ、さらに反対側へ) | 腰に持病がある子は無理をさせない |
| 10. バイバイ(手を振る) | お手 | お手の手を引いて、宙で動いた瞬間をとらえる | ほぼ無し |
| 11. おじぎ(前足を伸ばしてお尻を上げる) | 立った状態 | 誘導(鼻先を前足の間へ) | 無し。伸びの姿勢そのもの |
| 12. お願い(両前足をこすり合わせる) | おすわり | 誘導+キャプチャ | 座ったまま上体を起こすので短時間に。腰の弱い子はやらない |
| 13. ワン(合図で吠える) | 無し | キャプチャ(自然に吠えた瞬間) | 無し。ただし覚えたら合図のときだけ褒める |
| 14. うなずく・首を振る | 無し | 誘導(握った手を上下・左右に) | 無し |
| 15. バック(後ずさり) | 立った状態 | 誘導(胸に向かって歩み寄る) | 無し |
| 16. クロール(ほふく前進) | ふせ | 誘導(低く前へ) | 腰に持病がある子はやらない |
| 17. 足くぐり | 無し | 誘導(座った人の膝の下を通す) | 無し |
| 18. 8の字(足の間を縫う) | 足くぐり | 誘導(片足ずつ→両足) | 無し。方向転換はゆっくり |
| 19. ハウス・マットへ行く | タッチ | タッチの応用(触る先をマットにする) | 無し。留守番・来客で役に立つ |
| 20. 持ってきて・ちょうだい | 無し | キャプチャ+交換(おもちゃとおやつ) | 無し(投げる距離は短く) |
| 21. お片づけ(おもちゃを箱へ) | 持ってきて | 持ってきての応用(箱の上で離す) | 無し |
| 22. 名前で物を選ぶ | 持ってきて | 1つずつ名前を付けて、2つから選ばせる | 無し |
この一覧に「ちんちん(後ろ足で立つ)」「ジャンプ」「輪くぐり」を入れていないのは忘れたのではなく、小型犬には勧めないからです。理由は後半に書きます。
参考までに、アメリカの犬の団体(アメリカンケネルクラブ)には「トリックドッグ」という芸の資格の仕組みがあり、2026年3月改訂の参加者ガイドでは、いちばん下の「ノービス」級の芸として、お手・ハイタッチ・おまわり・タッチ・クロール・キス・合図で吠える・持ってくる・低い台に前足を乗せる、などが並んでいます。ゴロンや8の字は一つ上の「インターミディエイト」級、おじぎはさらに上の「アドバンス」級です。上の一覧の順番は、この級分けともおおむね合っています。
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芸を教える前に|いつから始めるか、何を決めておくか
芸は「基本のしつけが終わってから」と言われることが多いのですが、お手やタッチのように前提が無い芸は、お迎えの日から始めてかまいません。芸としつけの違いは、犬から見ればありません。どちらも「この動きをすると良いことが起きる」を覚えることです。むしろ、おやつで体を誘導する感覚や、できた瞬間に合図をもらう経験は、おすわり・ふせ・待てを教えるときにそのまま効きます。しつけの順番と並行して、遊びの中で進めてください。
始める前に、ご家族で3つ決めておきます。
「できた」を知らせる合図(マーカー)を1つ決める
芸を教えるうえでいちばん大事な道具は、おやつではなく「今のが正解」と知らせる合図です。合図は、クリッカー(カチッと鳴る小さな道具)でも、「イエス」「グッド」のような短い言葉でも、指を鳴らす音でもかまいません。条件は、ふだんの会話で使わない、はっきり区別できる音であることです。理由は、おやつを渡すのには数秒かかり、その間に犬が別の動きをしてしまうからです。合図があれば「前足が手に乗った、その瞬間」を切り取って伝えられます。
使い始める前に、合図とおやつを結びつけます。合図を出してすぐおやつ、を10〜20回繰り返すと、犬は「その音のあとにおやつが来る」と覚えます。以後は、合図を出したら必ずおやつを渡すのが約束です。合図だけ出しておやつを出さないことが続くと、合図の意味が薄れます。
ご褒美は小さく、たくさん
芸の練習は、1回の練習で何十回もおやつを渡します。ですから、1粒はできるだけ小さく(小指の爪くらい)、やわらかくて一口で飲み込めるものにします。かじるのに時間がかかるおやつは、次の動きに移るまでの間が空いてしまいます。その日のごはんの一部を練習用に取り分けて使えば、あげすぎの心配もありません。食べ物に興味が薄い子は、引っぱりっこのおもちゃなどその子が欲しがるものなら何でもご褒美になります。
言葉の合図は、あとから付ける
「おまわり、おまわり」と言いながらおやつを回しても、犬は言葉を聞いていません。おやつを見ています。言葉の合図は、犬が手の動きだけでその芸を確実にできるようになってから付けます。順番は、言葉を言う→一呼吸置く→手の合図、です。言葉のあとに手の合図が来ることを繰り返すうちに、犬は言葉だけで先に動くようになります。言葉はご家族で1つに決め、全員が同じ調子で使ってください。コマンド一覧の記事に、しつけの合図とあわせて書いています。
教え方の共通の型|誘導する→合図を出す→おやつを手から消す
芸の教え方には、大きく3つのやり方があります。犬の団体の用語の説明にそって書くと、誘導(ルアー)=おやつを鼻先に付けて動かし、体を目当ての形に導く。キャプチャ=犬が自分からその動きをした瞬間に合図を出して褒める。シェイピング=目当ての動きに少しでも近づいたら褒め、段階的に完成へ寄せる。上の一覧の「教え方の種類」は、この3つのどれで教えるかを書いたものです。
どのやり方でも、流れは同じです。「誘導して褒める」方法の解説をもとに、5段階にまとめます。
- おやつで誘導する……おやつを握った手を犬の鼻先に付け、ゆっくり動かします。「鼻の行く先に体がついてくる」のが誘導です。数回で犬が動きをつかみます
- できた瞬間に合図を出して、おやつを渡す……形ができた瞬間に「イエス」(またはクリッカー)。それからおやつです。合図が先、おやつが後、を守ります
- おやつを手から消す……ここを飛ばすと「おやつが見えるときだけやる犬」になります。手順は3段階で、①誘導した手のおやつをそのまま渡す→②誘導した手のおやつは渡さず、反対の手から渡す→③誘導する手にはおやつを持たず、同じ動きだけして、反対の手から渡す。空の手の動きが、そのまま手の合図になります
- 手の合図を小さくする……鼻先で大きく動かしていた手を、少しずつ小さく、体から離れた位置で。最後は指1本の動きや体の向きだけで通じるようにします
- 言葉の合図を足す……手の合図だけで確実にできるようになったら、言葉→一呼吸→手の合図の順で。言葉だけで動けるようになったら完成です
③でつまずく子は多いです。空の手についてこない子への工夫として、誘導する手の指に、においの強いおやつをこすりつけておく方法が書かれています。手からにおいがするので、犬は持っていると思ってついてきます。できたら反対の手からおやつです。
1回の練習は2〜3分、うまくいったところで終えるのが基本です。長くやるほど犬の集中は落ち、最後に失敗して終わると、その日の練習は失敗の記憶で締まります。「今日はここまで」を、いちばん上手にできた直後にしてください。
初級の芸の教え方|お手・おかわり・ハイタッチ・タッチ・おまわり・あごのせ
ここからは、上の型との「違い」だけを書きます。どの芸も、できた瞬間の合図→おやつ→手から消す→言葉を足す、は同じです。
お手・おかわり|前足を持ち上げない
お手は、犬の前足を人が持ち上げて教える方法が広まっていますが、それでは「持ち上げられる」を覚えるだけで、自分から出すようにはなりにくいです。教え方はキャプチャ(犬が自然にした瞬間をとらえて褒める方法)です。おやつを握った手を犬の前に差し出し、舐めたり嗅いだりしている間は何もしない。前足で手をかいた瞬間に合図を出して、おやつ。これを繰り返すと、犬は「前足を乗せると出てくる」と気づきます。乗せた前足が手の上に留まる時間を、1秒、2秒と少しずつ延ばし、安定したら「お手」の言葉を付けます。
おかわりは、反対の手を反対側の前足の前に出すだけです。ただし言葉を分ける(お手/おかわり)なら、差し出す手の位置を左右ではっきり変えて、犬が手の位置で足を選べるようにしてください。最初は「どちらの足でも出したら合図」で構いません。左右を分けるのは、確実に出るようになってからです。
ハイタッチ|お手の手のひらを縦にする
お手ができたら、受ける手のひらを少しずつ縦に起こしていきます。最初は45度くらい、次は垂直、そして少し高く。手の高さを上げすぎると犬が立ち上がってしまうので、座ったまま前足が届く高さまでにします。言葉は「タッチ」より「ハイタッチ」「イェイ」など、次に出てくる鼻のタッチと混ざらないものにしてください。
タッチ(鼻で手に触る)|あとで一番役に立つ芸
手のひらを犬の鼻先の少し横に出すと、犬はたいてい嗅ぎに来ます。鼻が手のひらに触れた瞬間に合図、おやつ。これだけです。地味な芸ですが、覚えると「手のあるところへ犬が来る」ようになるので、呼び戻し、マットへ行く、体重計に乗る、診察台に乗る、と応用がいくらでも効きます。手の位置を右・左・低い・高い・少し離れたところ、と変えて、どこに出ても触りに来るようにしておきます。
おまわり(スピン)|大きく、ゆっくり、1回ずつ
「犬 おまわり 教え方」で調べて来られる方が多い芸です。うまくいかない原因はほぼ1つで、おやつを動かすのが速い、または高いことです。手順は、犬が立った状態で、おやつを鼻のすぐ上に持ち、頭のすぐ上で大きな円をゆっくり描くです。手が高いと犬は見上げて座ってしまい、速いと途中で追うのをやめます。円を半分まで来られたら合図とおやつ、次に4分の3、最後に1周、と刻んでもかまいません。1周が安定してから「おまわり」「スピン」の言葉を付け、そのあとで手からおやつを消します。
ひとつだけ、小型犬で守ってほしいことがあります。回るのは1回ずつ。滑らない床で。膝に症状がある子はやらない。ペット保険のアニコム損害保険の、パテラ(ひざのお皿がずれる病気)の解説では、膝に負担をかける動きとして「ジャンプや激しい運動、ピョンピョンと飛び跳ねたり、クルクルと回ったりさせることは避けましょう」とあり、急な方向転換もひざに無理な力がかかります。トイプードル、チワワ、ポメラニアンなどは同じ解説でパテラになりやすい犬種に挙げられているので、スキップのような歩き方をする、片足を後ろに伸ばすしぐさがある、ジャンプや運動を嫌がる、といったサインがある子には、おまわりは教えません。健康な子でも、続けて何回転もさせる芸にはしないでください。
あごのせ|診察・爪切り・写真に効く
座った犬の前に、手のひらを上にして、あごの少し下に出します。犬があごを乗せた瞬間に合図、おやつ。自分から乗せない子は、おやつを持った反対の手を手のひらの少し上に置いて、あごが手のひらに触れた瞬間に合図します。乗せている時間を少しずつ延ばし、最後は数秒あごを乗せたまま、頭や耳を触られても動かないところまで持っていくと、動物病院の診察、目薬、耳掃除、顔まわりのカットが格段に楽になります。犬の団体の芸の資格の一覧にも「チンレスト(手のひらにあごを乗せる)」として入っている、実用の芸です。
中級・上級の芸の教え方|バーン・ゴロン・バイバイ・おじぎ・持ってきて
バーン(横に倒れる)|ふせから肩へ
ふせができていることが前提です。手順は、ふせをさせて正面にひざまずき、おやつを犬の頭の横に持って、肩のほうへ動かす。犬は首をひねって追ううちに横に倒れます。倒れた瞬間におやつを渡し、「バーン」と言います。数回できたら、倒れたまま数秒待ってからおやつを渡すようにして、姿勢を保つ時間を延ばします。終わりの言葉(「オッケー」「おしまい」)を決めて、それを言ってから起こすと、勝手に起き上がらなくなります。もう1つのやり方として、犬が自然に横になって休んでいるときに「バーン」と言っておやつを渡す(キャプチャ)も紹介されています。眠くなってきた時間帯が向いています。
ゴロン(一回転)|バーンの続き
バーンで横に倒れたところから、おやつを肩から背骨のほうへ動かすと、犬は仰向けになります。そのまま反対側へ動かすと、反対の横向きになって一回転です。手順もこの順で、横に倒れる→仰向け→反対側、と3段階で刻み、まず横に倒れて頭を床に付けるところまでを何度も褒めてから先へ進みます。安定して一周できるようになったら「ゴロン」の言葉を付け、手の動きとおやつを少しずつ減らします。背中を床にこすりつける動きなので、腰に持病のある子や、抱いたときに痛がる子には教えません。ふわふわのマットや芝の上で、固い床では行わないでください。
バイバイ(手を振る)|お手を「空振り」させる
「犬 バイバイ 教え方」も多い検索です。バイバイは、お手の応用です。お手の手を差し出し、犬の前足が届く直前に手を引く。前足が宙で空振りして動いた瞬間に合図、おやつ。最初は少し浮いただけで合図を出し、少しずつ「2回振ったら」「高く上げたら」と条件を上げていきます。犬が自分から前足を宙で動かすようになったら、手を引く動きを小さくし、最後は自分の手を振る動き(人のバイバイ)を合図にします。お手が確実に出る子ほど早く覚え、お手がまだの子は先にお手からです。
おじぎ|ふせにならないコツ
犬が立った状態で、おやつを鼻先から前足の間を通してお腹のほうへ動かすと、前足を伸ばしてお尻を上げた「伸び」の姿勢になります。これがおじぎです。難しいのは、そのまま「ふせ」に崩れてしまうこと。おじぎの形になった瞬間に合図を出し、おやつを少し先へ投げて犬を動かすことでふせにさせない、それでも崩れる子はお腹の下(腰のすぐ前)に指を軽く添えて「ふせではない」と伝える、という工夫が書かれています。伸びの姿勢そのものなので体への負担は無く、犬の団体の説明にも「ストレッチと筋力に良い」とあります。合図は、自分がお辞儀をする動きにすると見た目がそろいます。
お願い(両前足をこすり合わせる)|短く、座ったまま
座った犬の胸の高さで、おやつを握った手を止めます。犬は前足で手をかこうとするので、両方の前足が同時に上がった瞬間に合図、おやつ。両足が上がるようになったら、手をわずかに左右に揺らして、前足がこすれる動きを引き出します。かわいい芸ですが、座ったまま上体を起こす姿勢なので、1回は数秒まで。腰に持病のある子、ダックスフンドのような胴の長い子には教えません。理由は次の章に書きます。
ワン(合図で吠える)|覚えたら「合図のときだけ」
いちばん簡単なのはキャプチャで、犬がうれしくて自然に吠えた瞬間に「ワン」と言っておやつを繰り返す方法です。クリッカーがあると吠えた瞬間を切り取りやすい、ともあります。犬が「吠えるとおやつ」と気づいたら、以後は合図に応えて吠えたときだけ褒め、勝手に吠えたときは何もしない。ここを守らないと要求吠えを育てることになります。吠えやすい子、インターホンで吠える子には、この芸は教えないほうが無難です。
うなずく・首を振る|握った手を上下・左右に
犬の団体の芸の一覧にある「イエス・ノー」です。おやつを握った手(げんこつ)を犬の鼻先でゆっくり上下に動かすと、犬が追って首を縦に振ります。合図、おやつ。空の手でも追うようになったら、げんこつを見せるだけで「うなずく」になります。「首を振る」は、人差し指を立てた別の手の形で、左右に動かします。手の形を変えることで、犬は2つを区別します。
バック・クロール・足くぐり・8の字|誘導の向きが違うだけ
バックは、立った犬の胸に向かって、おやつを持った手を近づけながら自分が一歩踏み出すと、犬が一歩下がります。下がった瞬間に合図。1歩から2歩、3歩へ。壁ぎわの廊下など、横にそれられない場所だとまっすぐ下がります。
クロール(ほふく前進)は、ふせの犬の鼻先におやつを低く置いて、床すれすれに前へ引きます。体を起こさずに前足が動いた瞬間に合図。人の足や低い台の下をくぐらせると、自然と低いままになります。腰に負担がかかるので、腰の持病がある子には教えません。
足くぐりは、犬の団体の芸の一覧の「アンダー・ザ・ブリッジ」です。床に座って膝を三角に立て、片側にいる犬に、反対側からおやつを膝の下に差し入れて見せ、床に沿ってゆっくり引きます。犬がくぐり抜けたら合図。8の字は、立って足を開き、後ろ側からおやつを見せて片足の間をくぐらせ、片方の足を回って正面へ戻す。反対の足も同じ。両方できたら、右→左とつなげて8の字にします。リードを外して(家の中で)行い、動きを足すときは一度おやつの誘導に戻します。
ハウス・マットへ行く|タッチの応用
タッチを覚えた子なら早いです。マットの上に手を出してタッチ→マットの上に前足が乗った瞬間に合図→マットの上で座った、ふせた、で合図、と条件を上げます。手を出す位置を少しずつマットから離し、最後は指さすだけで行くようにします。「ハウス」も同じで、クレートの中に手を出すところから始めます。芸というより、来客や留守番のときの居場所を作る練習なので、クレートトレーニングの記事とあわせて進めてください。
持ってきて・ちょうだい・お片づけ|「交換」で教える
おもちゃをくわえた犬に「ちょうだい」と言って手を出し、離した瞬間に合図、おやつを渡して、おもちゃはすぐ返す。「渡しても取られない、むしろ得をする」を覚えると、犬は物を渡すようになります。持ってきては、1〜2メートル先に投げて、くわえて戻ってきたら「ちょうだい」。戻ってこない子は、ロングリードを付けずに済む家の中で、投げる距離を短くします。お片づけは、箱の上で「ちょうだい」をする形で、おもちゃが箱に落ちた瞬間に合図。箱を少しずつ遠くにします。犬の団体の芸の一覧では、2つのおもちゃを床に置いて「ボールを持ってきて」と名前で選ばせる芸まで、この延長線上にあります。
小型犬にやらせない芸・短くする芸|膝と腰の話
芸の一覧に「ちんちん(後ろ足で立つ)」「二足歩行」「ジャンプ」「輪くぐり」を入れなかった理由を書きます。うちで紹介している犬種の多くは、膝と腰に弱点を持って生まれてくるからです。
獣医師が監修した保険会社の解説では、パテラ(ひざのお皿がずれる病気)は「特に小型犬では子犬のころから発症する可能性が高く、徐々に進行して歩行に異常をきたすことがある」病気で、トイ・プードル、ポメラニアン、チワワ、ヨークシャーテリアなどの小型犬に多い病気です。同じ解説は、日常の注意として「ジャンプや激しい運動、ピョンピョンと飛び跳ねたり、クルクルと回ったりさせることは避けましょう」「急な方向転換も、膝に無理な力がかかりますので要注意」と書き、なりやすい犬種なら症状が無くてもワクチン接種のときなどに膝の状態を診てもらうことを勧めています。
腰のほうは椎間板ヘルニアです。同じ解説では、背骨のクッション(椎間板)が若いうちから傷みやすい犬種として、ミニチュア・ダックスフンドとトイ・プードルなどが挙げられ、ダックスフンドは若いうちから発症することがある、予防として激しい運動と段差の上り下りを控える、ただし絶対的な予防法は無い、とされています。
子犬の場合はもう1つあります。子犬の骨には、骨が伸びる部分(成長板)があり、少なくとも生後12か月までは閉じていません。閉じていないうちに高く跳ぶと、あとまで残るけがにつながることがあるので、大きなジャンプや競技のようなジャンプは、少なくとも生後12〜15か月までさせません(犬の団体の説明)。
これを芸に当てはめると、次のようになります。
| 芸 | 体に起きること | うちの考え |
|---|---|---|
| ちんちん・二足歩行・人の腕に前足をかけて立つ | 後ろ足だけで体重を支え、膝をまっすぐ伸ばす。腰も反る | 教えません。犬の団体の芸の一覧でも「後ろ足で立つ」は3秒までの芸です。かわいさの代わりに、おじぎ・あごのせ・お願い(数秒)を |
| ジャンプ・輪くぐり・腕の輪をくぐる・膝を飛び越える | 踏み切りと着地で膝と腰に衝撃。子犬は成長板 | 教えません。飛ばない「足くぐり」「8の字」「トンネルをくぐる」で代わりになります |
| おまわり・8の字 | 回転と方向転換で膝をひねる | 健康な子は1回ずつ・ゆっくり・滑らない床で。膝に症状がある子はやらない |
| お願い(両前足を上げる)・お座りで上体を起こす | 座ったまま腰を立てる | 数秒まで。ダックスフンドや腰に持病のある子はやらない |
| ゴロン・クロール | 背骨をねじる・低い姿勢で這う | やわらかい床で。腰に持病のある子、抱くと痛がる子はやらない |
| お手・タッチ・あごのせ・バイバイ・おじぎ・バック・持ってきて | 負担がほとんど無い | 年齢を問わず。シニア犬や術後の子にも |
芸の数と犬の賢さは関係がありません。負担の無い芸だけでも、十分に「賢い子」に見えますし、飼い主さまとのやりとりの量は同じです。シニア犬や、膝や腰の手術をしたあとの子にも、タッチやあごのせ、うなずく・首を振る、名前で物を選ぶ、は教えられます。頭を使う芸は、体を使う芸の代わりになります。
練習中にスキップのような歩き方をする、急にキャンと鳴く、片足を後ろに伸ばす、特定の場所を触ると嫌がる、といった様子があれば、芸を止めて動物病院へ。遊んでいて急に鳴いたり、体の決まった場所を触ると嫌がったりするときは、とくに注意してください。おすわりで後ろ足が崩れる記事に、膝のサインを詳しく書いています。
芸を教えるときのコツと、やってはいけないこと
- 1回2〜3分。うまくいった直後に終える……集中が切れてから続けると、失敗で終わります。「もう1回できそう」で止めるのがコツです
- 合図が先、おやつが後。合図を出したら必ず渡す……順番が逆になると合図の意味が無くなります
- おやつを手から消す段階を飛ばさない……「おやつが見えるときだけやる犬」は、この段階を飛ばした犬です
- 1つの芸ができるまで、次の芸を混ぜない……似た動き(お手とハイタッチ、タッチとハイタッチ)は、片方が確実になってから
- 言葉は最後に。1つの芸に1つの言葉……ご家族で統一します。似た言葉(おて/おいで)は避けます
- できない日は、できていた段階に戻る……1つ前の段階で数回成功させて終わりにします。粘るほど下手になります
- 叱らない、押さえない、前足を無理に持ち上げない……アメリカの獣医師の学会(米国獣医行動学会)は2021年に、力や不快に頼る方法はしつけに使うべきではない、罰を使った方法は不安からくる行動と結びつきやすく、覚える力そのものを落とす、という考えを出しています。芸は「したくなる」から覚えるものです
- 床は滑らないものに……フローリングでの芸は、膝にも腰にも悪いです。マットかラグの上で
- 生後8か月ごろ、急にやらなくなっても慌てない……飼い主にだけ従いにくくなる時期があります。反抗期の記事に書いています
何週間で覚える、という目安は置きません。お手を1日で覚える子もいれば、おまわりに1か月かかる子もいて、それは賢さの差ではなく、その子の体の動かし方と、飼い主さまのおやつの動かし方の相性です。今日、昨日より一段進んだかだけを見てください。
芸の進め方で迷ったら、ひとりで抱え込まずにドッグトレーナーへご相談ください。フローエンスはブリーダー直販で、お迎えのあとも、しつけのご相談を365日お受けしています。「どの芸で、どの段階で止まっているか」が分かると、相談がその場で具体的になります。褒め方の記事と、呼び戻しの記事も、芸の練習にそのまま使えます。
よくある質問
犬に芸を教えるのはいつからですか?基本のしつけが終わってからですか?
お手やタッチのように前提の動作が無い芸は、お迎えの日から始められます。犬から見れば芸としつけに違いは無く、どちらも「この動きをすると良いことが起きる」を覚えることです。おやつで体を誘導する感覚や、できた瞬間に合図をもらう経験は、おすわり・ふせ・待てを教えるときにそのまま効きます。ゴロンやバーンのように「ふせ」が前提の芸は、ふせができてからにしてください。1回の練習は2〜3分で、うまくいった直後に終えるのが基本です。
犬の芸で、いちばん簡単なものは何ですか?
前提になる動作が無い「タッチ(鼻で手のひらに触る)」と、おすわりができていればできる「お手」です。どちらも、犬が自分からその動きをした瞬間に合図を出しておやつを渡す(キャプチャ)だけで教えられます。犬の団体の芸の資格の仕組みでも、お手・ハイタッチ・タッチ・おまわりはいちばん下の級の芸です。タッチは覚えると「手のあるところへ来る」ようになるので、呼び戻しやマットへ行く練習にも使えます。
おまわりを教えたいのに、おやつを追わずに座ってしまいます。
おやつを持つ手が高すぎるか、動かすのが速すぎます。手順は、犬が立った状態で、おやつを鼻のすぐ上に持ち、頭のすぐ上で大きな円をゆっくり描きます。手が高いと犬は見上げて座り、速いと途中で追うのをやめます。円を半分まで来たら合図とおやつ、次に4分の3、最後に1周、と刻んでください。1周が安定してから「おまわり」の言葉を付け、そのあとで手からおやつを消します。小型犬は膝に負担がかかる動きなので、1回ずつ・ゆっくり・滑らない床で行い、膝に症状がある子には教えません。
バイバイ(手を振る)はどうやって教えますか?
お手の応用です。お手の手を差し出し、犬の前足が届く直前に手を引きます。前足が宙で空振りして動いた瞬間に合図を出しておやつ。最初は少し浮いただけで合図を出し、少しずつ「2回振ったら」「高く上げたら」と条件を上げていきます。犬が自分から前足を宙で動かすようになったら、手を引く動きを小さくし、最後は自分の手を振る動き(人のバイバイ)を合図にします。お手がまだ確実でない子は、先にお手からです。
おやつが無いと芸をしません。どうすればいいですか?
「おやつを手から消す」段階を飛ばしています。手順は3段階で、①誘導した手のおやつをそのまま渡す→②誘導した手のおやつは渡さず、反対の手から渡す→③誘導する手にはおやつを持たず、同じ動きだけして反対の手から渡す、です。空の手の動きがそのまま手の合図になり、そのあとで言葉の合図を足します。空の手についてこない子は、誘導する手の指に、においの強いおやつをこすりつけておくと、持っていると思ってついてきます。
ちんちん(後ろ足で立つ)や二足歩行を教えても大丈夫ですか?
小型犬には勧めません。後ろ足だけで体重を支え、膝をまっすぐ伸ばして腰を反らす姿勢だからです。獣医師が監修した保険会社の解説では、パテラ(ひざのお皿がずれる病気)は小型犬では子犬のころから起きやすく、トイ・プードル、ポメラニアン、チワワ、ヨークシャーテリアなどに多いとされ、日常の注意としてジャンプや飛び跳ね、クルクル回ることを避けるよう書かれています。ミニチュア・ダックスフンドやトイ・プードルは椎間板ヘルニアの出やすい犬種でもあります。かわいさの代わりに、おじぎ・あごのせ・バイバイ・お願い(数秒)など、負担の無い芸を教えてください。
シニア犬や、膝や腰に持病のある犬にも芸は教えられますか?
教えられます。年齢や持病で変わるのは「どの芸を選ぶか」だけです。お手・タッチ・あごのせ・バイバイ・おじぎ・バック・持ってきて・うなずく・名前で物を選ぶ、は体への負担がほとんど無く、シニア犬や手術後の子にも教えられます。避けるのは、後ろ足で立つ・ジャンプ・回転・上体を起こす・背中をこすりつける動きです。頭を使う芸は、体を使う芸の代わりになります。練習中にスキップのような歩き方や、急に鳴く、特定の場所を触ると嫌がる様子があれば、芸を止めて動物病院へ相談してください。
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まとめ
犬の芸は、どれも「おやつで体を誘導する→できた瞬間に合図を出す→おやつを手から消す→手の合図を小さくする→言葉を付ける」の同じ型で教えます。22種類を、前提になる動作が少ない順に並べると、お手・タッチ・おまわり・あごのせから始めて、ふせを土台にバーン・ゴロン、お手を土台にハイタッチ・バイバイ、タッチを土台にマットへ行く、と積み上がります。始める前に「できた」を知らせる合図を1つ決めて、合図を出したら必ずおやつを渡す。1回は2〜3分で、うまくいった直後に終える。叱らない、押さえない、前足を持ち上げない。小型犬には、後ろ足で立つ芸とジャンプは教えません。パテラと椎間板ヘルニア(背骨のクッションが飛び出す病気)の出やすい犬種だからで、おまわりも1回ずつ・ゆっくり・滑らない床で行い、膝に症状がある子には教えません。負担の無い芸だけでも、飼い主さまとのやりとりの量は同じです。
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