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犬のしつけに自信がない|原因の切り分けと立て直し方【2026】
公開日:2025年4月28日(月) 更新日:2026年10月6日(火) 犬の育て方
この記事の要点
犬のしつけがうまくいかないのは、飼い主さまの性格でも犬のやる気でもなく、たいてい「仕組み」が決まっていないからです。うまくいかない原因は、合図が家族でばらばら・1回が長い・場所を飛ばした・ご褒美の価値が犬に合っていない・ご褒美が遅い・叱っている・合図の連呼・眠い/興奮/こわい・思春期・体の痛み、の10行で、飼い主の性格の行はありません。「頑固」「やる気がない」に見える犬は、間違えると損をすると学んだ犬で、犬は人を困らせるために動いてはいません。飼い主と犬の長期のストレスは同期しますが、心配しやすい飼い主の犬がストレスが高いという結果ではなく、伝わって困るのは不安が「叱る・連呼する・焦る」に変わったときです。自信が無いときは、比べる・全部を同時に教える・芸・「ダメ」・長い練習をやめ、名前で振り向く練習とごはんの前のおすわりを1回2〜3分で毎日続け、「何を・どこで・何回中何回・犬の様子」を1行ずつ記録して段階で見ます。教室に通うかどうかで成否は決まらず、家で毎日5〜10分のほうが効きます。何週間も段階が進まない、家族で合図がそろわない、犬が唸る・隠れるなら、動物病院とドッグトレーナーへ。
「しつけがうまくいかない。自分には向いていないのかもしれない」「うちの子はやる気がない。ほかの子はもっとお利口なのに」「犬を飼いたいけれど、しつけができる自信がない」。この記事に来られる方の検索語で多いのは「犬を飼う自信がない」「子犬 しつけ うまくいかない」「犬 しつけ できない」「やる気ない犬」で、犬の話というより、飼い主さまの側の「自信」の話です。この記事は、そこから書きます。
先に結論を書きます。しつけがうまくいかないのは、飼い主さまの性格でも、犬のやる気でもなく、たいてい「仕組み」が決まっていないからです。合図が家族でばらばら、1回が長い、場所を飛ばした、ご褒美が犬にとって価値が無い、叱っている、思春期、体の痛み。獣医行動学の資料と、アメリカの犬の団体(アメリカンケネルクラブ)の解説は、犬が「言うことを聞かない」ように見える理由を、この形で並べています。どれも、飼い主さまの向き不向きではなく、今日から変えられる手順の話です。この記事では、自信が無くなる理由、うまくいかない原因の切り分け、飼い主さまの不安が犬に伝わるかどうかの研究、自信が無いときにやめてよいことと続けること、「できた」を小さく作る記録の付け方、しつけ教室に通わないとだめなのかへの答え、相談の目安を順に書きます。いつから何を教えるかはしつけはいつからの記事に、実際にやる順番はしつけの順番の記事に、叱ったあとに犬が萎縮したときは叱って自信を無くした犬の記事に分けているので、ここは「飼い主さまの側」に絞ります。
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子犬を見る犬のしつけに自信がないのはふつうです|向き不向きでなく仕組みの問題
まず、自信が無いのは飼い主さまだけではない、という数字を書いておきます。一般社団法人ペットフード協会の「2025年 全国犬猫飼育実態調査」で、犬を飼っていないが飼いたい気持ちのある人(692人)に「現在飼っていない理由」を複数回答で聞いたところ、「十分に世話ができないから」が20.2%、「最後まで世話をする自信がないから」が14.7%でした。「犬を飼う自信がない」は、迎える前の人が挙げる理由の上位に入るもので、迎えたあとに「しつけに自信がない」と感じるのは、その続きです。環境省の「家庭動物等の飼養及び保管に関する基準」も、飼う前に「生態、習性及び生理に関する知識の習得に努める」こと、「将来にわたる飼養の可能性について、住宅環境及び家族構成の変化や飼養する動物の寿命等も考慮に入れ、慎重に判断する」ことを求めています。自信は、性格ではなく、知識と手順で作るもの、というのが国の基準の立場でもあります。迎える前の準備の全体は犬の飼い方の記事に書いています。
次に、犬の側です。犬は、飼い主さまを困らせるために動いてはいません。獣医行動学の専門医が書いた、アメリカの動物病院グループ(VCA)の「子犬のしつけの基本」の解説は、子犬はほかの動物と同じで「自分にとってうまくいったこと」を繰り返す、おやつ・注目・おもちゃ・遊びにつながった行動は次もやる、そして「人を怒らせるためや、人と張り合うために行動しているのではない。犬の側から見てうまくいくことをしているだけだ」と書いています。飛びつくと人が手で押しのけて声をかける、それは犬にとって「飛びつけば触ってもらえて話しかけてもらえる」という成功体験です。うまくいかないしつけの多くは、犬が「悪い」のではなく、犬から見て「うまくいってしまっている」ことが、飼い主さまの困りごとと一致していないだけです。
「うちの子はやる気がない」「頑固だ」と感じている方へ。アメリカの犬の団体の電話相談を担当するトレーナーは、飼い主が「頑固で教えられない」と言う犬のほとんどが、実際には「間違いたくないから、やろうとしない」犬だと説明しています。いつも「違う」と言われ続けた犬は、においを嗅ぐ・体をかく・あくびをする・聞こえないふりをする、のほうが楽になる。学校で、いつも「間違い」と言う先生の授業では手を挙げなくなるのと同じだ、という言い方です。「やる気がない犬」は、やる気の問題ではなく、「やっても損をする」と学んだ犬です。これも仕組みの話で、次の章で直せます。
そして、比べないこと。犬の行動を大規模に調べた2022年の研究(サイエンス誌・飼い主アンケート18,385頭と遺伝子解析2,155頭)では、犬種で説明できるのは個体ごとの行動の違いのうち約9%で、犬種による差より同じ犬種の中の差のほうが大きい、と報告されています。同じトイプードルでも、初日から名前に振り向く子と、しばらく様子を見る子がいます。うちで紹介しているトイプードル、チワワ、ミニチュアダックスフンド、ポメラニアン、マルチーズ、シーズーのような小型犬でも同じで、「同じ犬種のあの子はできているのに」は、比べる相手として成り立ちません。比べる相手は、先週のうちの子です。
新しく載った子犬
しつけがうまくいかない原因を仕組みで切り分けます|10行の表
「子犬 しつけ うまくいかない」「犬 しつけ できない」で調べて来られる方へ。うまくいかないときは、「自分の教え方が下手だ」と丸ごと考えずに、どこが飛んでいるかを1つずつ見ます。獣医行動学の専門医の解説は、子犬が合図に従わないときの原因として、気が散っている・混乱している・その場所やその床(滑る床・濡れた芝)では合図の意味が分かっていない・ほかに気を引くものがある・疲れている、興奮している、怖がっている・体の具合が悪い、を挙げ、「どれも、その瞬間の子犬の必要を満たすか、練習をいったん止めてあとでやり直せば直る」と書いています。アメリカの犬の団体の解説にある「よくある失敗」と合わせて、表にします。当てはまる行を探してください。
| うまくいかないとき | 飛んでいる仕組み | 直し方 |
|---|---|---|
| 家族の誰かの言うことだけ聞く。日によって聞いたり聞かなかったり | 合図が家族でばらばら。「おすわり」と「すわれ」は犬には別の言葉。言葉と体の動きと声の調子の全部が一致していないと、犬は混乱する。似た音の合図(例:クレートと待て)も混乱の元 | 言葉・手の動き・解除の言葉を家族で1つに決めて紙に書く。合図の決め方はコマンド一覧の記事、家族でそろわないときは家族でルールが統一できないときの記事へ |
| 最初はできるのに、途中から失敗が増えて、最後は飽きている | 1回が長い。1日1時間は多くの犬には長すぎで、5〜10分あれば十分。暮らしの中に組み込むのがよい。合図の練習は、最初は数分以内で1日に何回か | 1回を2〜3分にして、できたところで終える。ごはんの前に「おすわり」、散歩の前に「待て」のように、場面に置く。1回の長さと時間帯はしつけはいつからの記事へ |
| 家ではできるのに、玄関や散歩道ではできない | 場所を飛ばした。犬は「一般化」(ある場所で覚えたことを、ほかの場所でも使うこと)が苦手で、台所で教えたおすわりは犬にとって「台所で座る」の意味になる。新しい場所に移るたびに基本に戻し、距離・時間・気を散らすものは1つずつ別に練習する。合図を出す人が離れたり背中を向けたりすると成績が下がった研究もある(2005年) | 静かな部屋→家族が動いている部屋→玄関→家の前→散歩道、と1段ずつ。できなければ1段戻す |
| おやつを見せても乗ってこない。ほめても反応が薄い | ご褒美の価値が犬に合っていない。ご褒美は「犬から見て良いもの」でなければ効かない。チーズが大好きな犬にフードの粒をご褒美にすると成績が落ちる。ご褒美の順位表を作って、難しい課題には上位のものを。練習の直前にごはんを食べさせていることも原因になる | おやつの価値を上げる(小さくちぎった鶏肉やチーズ)。ごはんの少し前に練習する。声だけでなく、おやつ・遊び・散歩を報酬に使う |
| できた瞬間にほめられていない。渡すときに犬が別の姿勢になっている | ご褒美が遅い・置き場所が違う。ご褒美を渡した瞬間に犬がしていることが身につくので、伏せを求めたのに座り直したときに渡せば、座ることを教えていることになる | 「いいこ」「イエス」のような短い合図(マーカー)で瞬間を切り取り、鳴らしたら必ず渡す。渡すときの犬の姿勢を見る |
| 「ダメ」「違う」と言っている。できないと声が低くなる | 叱っている。「ダメ」や「エッ」のような否定の合図は学習を妨げる。犬は、自信があって初めて新しいことを覚えられる。アメリカの獣医師の学会(米国獣医行動学会)の2021年の見解も、罰を使った方法は不安に関わる行動と関連し、新しいことを覚える力を落とすとしている | 間違いは無視して、もう一度やらせる。できたときだけ声を出す。叱り方の考え方は犬の叱り方の記事へ |
| 「おいで、おいで、おいで」と繰り返している。呼ぶと逃げる | 合図の連呼と「汚れた合図」。応えない犬に合図を繰り返すと「1回では聞かなくていい」と教えることになる。遊びの終わりや爪切りの前にだけ呼ぶと、合図が「嫌なことの始まり」の意味になる | 1回だけ言う。応えないと分かっている場面では言わない。呼んだら良いことが起きる形に戻す。呼び戻しの記事へ |
| 眠そう、興奮している、こわがっている | 時間帯と状態。疲れている・興奮している・怖がっているときは、合図に従えない。子犬は1日18〜20時間眠るので、起きて落ち着いている時間は短い | 散歩や遊びのあと、ごはんの少し前の落ち着いた時間に。こわがっている子は距離を戻す(社会化トレーニングの記事)、興奮している子は上がる前に区切る(子犬の興奮の記事) |
| 生後半年を過ぎて、できていたことが急にできなくなった | 思春期。生後5か月と8か月の犬93頭を調べた2020年の研究では、8か月では飼い主の「おすわり」に従う割合が下がった一方、知らない人にはむしろ良くなっていた。飼い主にだけ従いにくくなる時期があるということで、教え方の失敗ではない。生後6〜14か月には、2回目の「怖がる時期」も来る | 合図を減らさず、家の中の簡単な段階に戻して、できたことをほめる回数を稼ぐ。犬の反抗期の記事へ |
| 特定の姿勢(おすわり・伏せ)だけ嫌がる。触ると怒る。急に変わった | 体の痛み。2020年の総説では、行動の専門家に紹介された犬の症例の3分の1ほど、多いと8割近くに痛みが関わっていた。体の具合が悪い・不快なときも、合図に従えない | しつけの前に動物病院。小型犬は膝のお皿の骨と腰を先に。おすわりの記事の「座り方」の章へ |
この表で、飼い主さまの「性格」が原因になっている行は1つもありません。全部、決め方と順番と時間の話です。だから「向いていない」という結論は出てきません。出てくるのは「どの行を直すか」だけです。10行のうち、最初の3行(合図・長さ・場所)で大半が説明できます。まずそこから見直してください。
「やる気がない犬」に見えるとき、犬の側で起きていること
「やる気ない犬」で調べて来られる方がいるので、もう少し書きます。あくびをする・目をそらす・地面を嗅ぐといった「興味が無さそう」に見えるしぐさは、犬が飼い主さまの気持ちを読んで出しているサインのことがあります。犬は人の感情を読めるので、飼い主が怒っている・いら立っていると感じると、「閉じて」学ぶのをやめます。それは頑固や無視に見えますが、飼い主の気分に反応しているだけです。あくび・目をそらす・地面を嗅ぐが出たら、自分が何を出しているかを見て、戻せないなら休憩して、あとでやり直してください。つまり「やる気がない」の正体は、①間違えると損をすると学んだ(叱られている)、②ご褒美が犬にとって価値が無い、③人の側のいら立ちを読んで閉じている、④眠い・怖い・体がつらい、のどれかで、どれも犬の性格ではありません。あくびや目をそらすの意味は犬のボディランゲージの記事に、名前を呼んでも見ない子はアイコンタクトの記事に分けています。
飼い主の不安は犬に伝わりますか|研究で分かっている範囲で書きます
「自信が無いと犬に伝わって、余計にうまくいかない」と書かれたページを見かけます。半分は本当で、半分は言い過ぎなので、研究の言葉で書きます。2019年にサイエンティフィック・リポーツ誌に発表されたスウェーデンの研究では、飼い主と犬の58組で、毛髪に蓄積したコルチゾール(数か月分のストレスに関わるホルモン)を夏と冬の2回測りました。対象はシェットランド・シープドッグとボーダー・コリーで、家庭犬と競技犬の両方を含みます。結果は、飼い主の毛髪コルチゾールと犬の毛髪コルチゾールが強く相関していて、犬の活動量や1週間の練習回数とは関係が無く、犬の性格はほとんど影響しなかった一方で、飼い主の性格は犬の値に影響していました。研究者は「犬は、かなりの程度、飼い主のストレスの水準を写している」と考察しています。数か月単位の長いストレスが、犬と飼い主で同期している、ということです。
ただし、ここで「心配性の飼い主の犬はストレスが高い」と読むのは、この研究の結果と逆です。同じ研究で、飼い主の「神経症傾向」(心配しやすさ)の点数が高いほど、犬の毛髪コルチゾールは夏の試料ではむしろ低く、冬の試料では犬の性別で向きが分かれ、「高い飼い主の犬は高い」という単純な結果にはなっていません。研究者は、心配しやすい人は犬と強い愛着を作り、犬を心の支えにすると同時に犬の支えにもなっている可能性がある、と考察しています。つまり、「自信が無い」「心配だ」という気持ちそのものが犬を悪くする証拠は、この研究にはありません。伝わって困るのは、不安そのものではなく、不安が「叱る」「連呼する」「焦って進める」に変わったときです。練習中に飼い主がいら立つと犬は閉じて学ぶのをやめるので、戻せないなら休憩する、というのもまさにその場面の話です。もう一つ、2020年にポルトガルの家庭犬92頭で行われた研究と、2021年の英国の研究は、罰を多く使う方法で教えられた犬は、練習の外でも判断が「悲観的」に寄ることを報告しています。飼い主さまの不安が犬に残るのは、不安が罰の形で犬に届いたときです。心配なまま、手順どおりにほめて教えている飼い主さまの犬は、その心配を写しません。
だから、この記事で飼い主さまに勧めるのは「自信を持ちましょう」ではありません。自信は、あとから付いてくるものです。勧めるのは、不安なときほど、叱らない・連呼しない・1回を短くする、という3つを守ることです。それで犬の側には、飼い主さまの不安が届かなくなります。叱ってしまったあとに犬が寄ってこなくなったときの接し方は叱って自信を無くした犬の記事に書いています。
自信が無いときに、やめてよいこと・続けること
「しつけに自信がない」と感じている時期は、やることを増やすより、減らすほうが効きます。「よくある失敗」として挙げられるものの多くは、「早く結果を出したい」から増やしてしまったものです。やめてよいことと、それでも続けることを、表にします(アメリカの犬の団体と獣医師の学会の解説をもとにまとめました)。
| やめてよいこと | 理由 | それでも続けること |
|---|---|---|
| ほかの犬・ほかの家と比べる | 犬種で説明できるのは行動の違いの約9%。同じ犬種の中の差のほうが大きい(2022年の研究)。比べる相手は先週のうちの子 | 「先週できなかったこと・今週できたこと」を1行ずつ書く(次の章) |
| いくつもの合図を同時に教える | 距離・時間・気を散らすものは別々に練習し、1段ずつ進める。同時に上げると、どれも入らない | 「名前で振り向く」「ごはんの前のおすわり」の2つだけを毎日 |
| お手・おかわり・ハイタッチのような芸 | 芸は入りやすく達成感があるが、トイレ・ハウス・触られる・おいで・待ての土台が後回しになる。順番はしつけの順番の記事へ | トイレ・寝床・触られる練習・名前、の土台。土台が入れば芸はあとから数日で入る |
| 「ダメ」「違う」と言う | 否定の合図は学習を妨げ、犬は「間違いたくないからやらない」ようになる。罰は覚える力を落とす | できたときだけ「いいこ」。間違いは無視してもう一度 |
| 1回20分・30分の練習 | 5〜10分で十分で、1時間は多くの犬に長すぎる。長いほど失敗で終わる | 1回2〜3分を、ごはんの前・散歩の前・玄関の前に置く。犬が「もっと」の顔をしているうちに終える |
| 「何日で覚えるか」を目標にする | 犬もその環境も一つずつ違うので、節目はその犬によって変わる | 「今週どの段階か」で見る。段階が1つ上がれば順調 |
| 自分を責める・「向いていない」と決める | うまくいかない原因の表に、飼い主の性格は1行も無い。全部、決め方と順番と時間の話 | 原因の表で当てはまる行を1つ選んで、その1つだけ直す |
右の列で、いちばん続けてほしいのは「ごはんの前のおすわり」です。練習は暮らしの中に組み込むのがいちばんで、散歩に行きたがっているならリードを付ける前に座らせる、器を下ろす前に何か1つやらせる、のようにします。1日2回、必ず来る場面なので、飼い主さまが「今日は練習できなかった」と落ち込む日が無くなります。ごはんの器を持ったら座る、が入るだけで、「うちの子は言うことを聞く」という実感が、毎日2回積まれます。自信は、この実感から付いてきます。教え方はおすわりの教え方の記事に書いています。
「できた」を小さく作って、記録する|日数ではなく段階で見ます
自信が無くなる直接の原因は、「できたかどうか」が見えないことです。犬の練習は、できるようになった日が分からないまま、いつの間にかできている、という形で進みます。だから、記録を付けないと「ずっとできていない」ように感じます。やることは2つで、「できた」を小さく作ることと、それを書き留めることです。
「できた」を小さく作る、とは、目標を段階に分けることです。犬が合図をどこでも使えるようになるには、距離・時間・気を散らすもの、の3つを別々に練習して、それから組み合わせます。おすわりなら、おやつで誘導すると座る→手の動きだけで座る→言葉だけで座る→家族が動いている部屋でも座る→玄関でも座る→散歩道でも座る、と6つの段階があります。「おすわりがまだできない」と思っている方の多くは、実は段階3か4まで来ていて、「散歩道でできない」だけです。段階に分けると、「できていない」が「段階4まで来た」に変わります。
記録は、紙でもスマートフォンでもよく、書くのは5つだけです。日付、何を(合図の名前)、どこで(台所・玄関・散歩道)、何回中何回できたか、犬の様子(乗っていた・途中で飽きた・あくびが出た)。1回2〜3分の練習の直後に、1行。それだけです。1週間たって読み返すと、「台所では10回中9回、玄関では10回中4回」のように、どの段階にいるかが分かります。「玄関で4回」は、失敗ではなく、玄関の練習が始まった印です。「新しい場所に移ったら基本に戻す」の、戻す場所が、記録から決まります。
もう一つ、記録には「犬の様子」の列を必ず入れてください。あくび・目をそらす・地面を嗅ぐが出た回は、犬が閉じかけた回で、その日の飼い主さまの側の焦りか、1回の長さか、おやつの価値が、記録から見えてきます。うまくいかない原因の表で「どの行か」を決める材料が、この列です。しつけの相談をするときも、この5つの記録があると、その場で具体的な話になります。
しつけ教室に通わないとだめですか|家で毎日5〜10分のほうが効きます
「犬 しつけ教室 通わない」で調べて来られる方が多いので、はっきり書きます。教室に通うかどうかで、しつけの成否は決まりません。アメリカの犬の団体の解説は、よくある失敗の一つとして「しつけ教室に通うが、その週に家で練習しない人があまりに多い」ことを挙げ、1日1時間は要らず、5〜10分で十分、暮らしの日課に組み込めばなおよい、覚えたあとも定期的に練習して技術を磨き続けるように、と書いています。ピアノを毎日練習するのと同じで、犬も繰り返しで上達する、という言い方です。教室は「教わる場所」で、犬が覚える場所は家です。教室に通っていても、家で毎日5〜10分が無ければ入りませんし、教室に通っていなくても、家で毎日5〜10分があれば入ります。
ただし、人に見てもらうことの価値は別にあります。獣医行動学の専門医の解説は、飼い主が「いら立ちを感じているとき」「子犬がとても興奮しやすい、または飲み込みが悪いとき」は専門家の助けを求めるよう勧め、ほめて教える方法に熟練したトレーナーが、時間をかけて、子犬との暮らしをもっと楽しめるように手助けしてくれる、と書いています。自分の教え方のどこが飛んでいるかは、自分では見えにくいものです。当犬舎からお迎えいただいた方は、365日いつでも専門トレーナーに相談できるしつけサポートがあります。「合図は決めたが、犬が途中で飽きる」「玄関でだけできない」といった、その子の様子に合わせた相談は、トレーナーダイヤルで受けています。前の章の記録があると、その場で「どの行を直すか」が決まります。相談のタイミングに迷ったら、ドッグトレーナーに相談するタイミングの記事も参考にしてください。
やってはいけないことと、相談の目安
自信が無いときに、飼い主さまがやりがちなことを並べます。どれも「早く結果を出して安心したい」から出るもので、結果は逆になります。
- できないから叱る・「ダメ」を増やす……犬は「間違いたくないからやらない」ようになります。罰は覚える力を落とします。間違いは無視して、できたときだけ声を出します
- 合図を繰り返す・声を大きくする……「1回では聞かなくていい」と教え、合図そのものが嫌なものになります。1回だけ言い、応えない場面では言いません
- 動画や本のとおりに、一度に全部やる……段階を飛ばして、どれも入りません。合図は2つ、場所は1段ずつ
- うまくいかない日に長くやる……長いほど失敗で終わり、最後の記憶が失敗になります。うまくいかない日は、確実にできる簡単なことを1つやって、良い形で終えます
- 犬の前でいら立ちを見せる……犬は人の感情を読み、閉じて学ぶのをやめます。戻せないなら休憩して、あとでやり直します
- 「頑固だ」「やる気がない」と決める……その犬は「やっても損をする」と学んだ犬です。ご褒美の価値と、叱っていないかを先に見ます
- 家族の誰か1人が背負う……合図がばらばらになる原因です。家族全員で同じ言葉、同じ反応に
- 「自分は向いていない」と結論を出す……原因の表に、飼い主の性格の行はありません。直すのは1行です
相談の目安です。原因の表で当てはまる行を直しても、何週間も段階が進まない、家族で合図がそろわない、生後半年を過ぎて崩れたまま戻らない、犬が練習の場所や道具を見ると隠れる、触ると唸る、以前できていたことを急に嫌がる。そういうときは、ひとりで抱え込まずに、体のことは動物病院へ、しつけのことはドッグトレーナーへご相談ください。フローエンスはブリーダー直販で、お迎えのあとも、しつけのご相談を365日お受けしています。「何を、どこで、何回中何回、犬がどんな様子だったか」の記録があると、相談はその場で具体的になります。しつけの悩みが続いて眠れない・犬を見るのがつらいところまで来ているなら、育犬ノイローゼの記事を先に読んでください。それは、しつけの技術の話ではなく、飼い主さまの休み方の話です。
よくある質問
犬のしつけに自信がありません。向いていないのでしょうか?
向き不向きではなく、仕組みの話です。獣医行動学の専門医の解説は、子犬が合図に従わない原因として、気が散っている・混乱している・その場所や床では合図の意味が分かっていない・ほかに気を引くものがある・疲れている、興奮している、怖がっている・体の具合が悪い、を挙げ、どれもその瞬間の子犬の必要を満たすか練習をいったん止めてやり直せば直る、としています。アメリカの犬の団体の解説が挙げる「よくある失敗」も、合図が一致していない・1回が長い・場所を飛ばした・ご褒美の価値と速さ・否定の合図・連呼、で、飼い主の性格は入っていません。当てはまる行を1つ選んで、その1つだけ直してください。一般社団法人ペットフード協会の2025年の調査では、犬を飼いたい人の14.7%が「最後まで世話をする自信がない」を飼っていない理由に挙げていて、自信の無さは珍しいものではありません。
犬を飼う自信がありません。どう考えればいいですか?
自信は性格ではなく、知識と手順で作るものです。環境省の「家庭動物等の飼養及び保管に関する基準」は、飼う前に「生態、習性及び生理に関する知識の習得に努める」こと、「将来にわたる飼養の可能性について、住宅環境及び家族構成の変化や飼養する動物の寿命等も考慮に入れ、慎重に判断する」ことを求めています。ペットフード協会の2025年の調査でも、犬を飼いたい人が飼っていない理由として「十分に世話ができないから」20.2%、「最後まで世話をする自信がないから」14.7%が挙がっていて、迷うのはふつうです。しつけについては、合図を家族で1つに決める・1回2〜3分・場所を1段ずつ・叱らない、の手順が決まっていれば、犬種や性格に関わらず進みます。迎える前の準備と手続きの全体は犬の飼い方の記事にまとめています。
うちの犬はやる気がありません。頑固なのでしょうか?
やる気の問題ではなく、「やっても損をする」と学んだ犬のことが多いです。アメリカの犬の団体の電話相談のトレーナーは、飼い主が「頑固で教えられない」と言う犬のほとんどが「間違いたくないからやろうとしない」犬で、いつも「違う」と言われた犬は、においを嗅ぐ・あくびをする・聞こえないふりをするほうが楽になる、と説明しています。飼い主がいら立っていると犬は閉じて学ぶのをやめ、それが頑固や無視に見えることもあります。ご褒美が犬にとって価値が無い、眠い・怖い・体がつらい、も同じ形に見えます。否定の合図をやめ、間違いは無視してもう一度やらせ、できたときだけ声を出し、ご褒美の価値を上げてください。
飼い主が不安だと、犬に伝わって言うことを聞かなくなりますか?
半分は本当で、半分は言い過ぎです。2019年の研究では、飼い主と犬の58組で毛髪コルチゾール(数か月分のストレスに関わるホルモン)が強く相関し、犬の活動量や練習回数とは関係が無く、研究者は犬が飼い主のストレスの水準を写していると考察しています。ただし同じ研究で、心配しやすい(神経症傾向の高い)飼い主の犬は、夏の試料ではコルチゾールがむしろ低く、冬は犬の性別で向きが分かれていて、「心配性の飼い主の犬は高い」という結果ではありません。「自信が無い」という気持ちそのものが犬を悪くする証拠はありません。伝わって困るのは、不安が「叱る」「連呼する」「焦って進める」に変わったときです。練習中に飼い主がいら立つと犬は閉じて学ぶのをやめるので、戻せないなら休憩してください。不安なときほど、叱らない・連呼しない・1回を短くする、の3つを守ってください。
しつけ教室に通わないと、しつけはできませんか?
教室に通うかどうかで、成否は決まりません。アメリカの犬の団体の解説は、よくある失敗の一つとして「教室に通うが、その週に家で練習しない人があまりに多い」ことを挙げ、1日1時間は要らず5〜10分で十分、暮らしの日課に組み込めばなおよい、と書いています。犬が覚える場所は家で、教室は教わる場所です。ただし、自分の教え方のどこが飛んでいるかは自分では見えにくいので、獣医行動学の専門医の解説は、飼い主がいら立ちを感じているとき、犬が興奮しやすい・飲み込みが悪いときは専門家の助けを求めるよう勧めています。当犬舎からお迎えいただいた方は、365日いつでも専門トレーナーに相談できるしつけサポートがあり、トレーナーダイヤルでその子の様子に合わせた相談を受けています。
子犬のしつけがうまくいきません。何から見直せばいいですか?
合図・1回の長さ・場所、の3つからです。家族で言葉と手の動きと解除の言葉が1つにそろっているか(「おすわり」と「すわれ」は犬には別の言葉)、1回が2〜3分で「できたところで終える」形になっているか(5〜10分で十分で、1時間は長すぎます)、家の静かな部屋で確実になってから玄関・家の前・散歩道へ1段ずつ広げているか(犬は「一般化」が苦手で、台所で教えたおすわりは台所でしか通じない)。この3つで大半が説明できます。それでも進まなければ、ご褒美の価値と渡す速さ、叱っていないか、生後6〜8か月の思春期、体の痛みの順に見ます。原因の表に、飼い主の性格の行はありません。
しつけの「できた」が分からず、自信が持てません。どう記録すればいいですか?
日付、何を(合図の名前)、どこで(台所・玄関・散歩道)、何回中何回できたか、犬の様子(乗っていた・飽きた・あくびが出た)の5つを、1回2〜3分の練習の直後に1行ずつ書きます。1週間読み返すと「台所で10回中9回、玄関で10回中4回」のように、どの段階にいるかが分かり、「玄関で4回」は失敗ではなく玄関の練習が始まった印だと読めます。犬は場所ごとに合図を覚えるので、新しい場所に移ったら基本に戻します。戻す場所も記録から決まります。「犬の様子」の列にあくび・目をそらすが出た回は、犬が閉じかけた回で、1回の長さかおやつの価値か飼い主の焦りかが見えます。相談するときも、この5つがあるとその場で具体的な話になります。
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まとめ
犬のしつけに自信がないのは、飼い主さまの向き不向きではなく、仕組みが決まっていないだけです。獣医行動学の資料とアメリカの犬の団体の解説が挙げる「うまくいかない原因」は、合図が家族でばらばら・1回が長い・場所を飛ばした・ご褒美の価値が犬に合っていない・ご褒美が遅い・叱っている・合図の連呼・眠い/興奮/こわい・思春期・体の痛み、の10行で、飼い主の性格の行はなく、最初の3行で大半が説明できます。犬は人を困らせるために動いてはおらず、「頑固」「やる気がない」に見える犬は、間違えると損をすると学んだ犬か、ご褒美が合っていない犬か、人のいら立ちを読んで閉じた犬です。飼い主と犬の長期のストレスは同期しますが、心配しやすい飼い主の犬がストレスが高いという結果ではなく、伝わって困るのは不安が叱る・連呼する・焦るに変わったときで、罰を多く受けた犬は判断が悲観的に寄ります。自信が無いときは、比べる・全部を同時に教える・芸・「ダメ」・長い練習・「何日で覚えるか」・自分を責める、をやめ、名前で振り向く練習とごはんの前のおすわりを1回2〜3分で毎日続け、日付・何を・どこで・何回中何回・犬の様子を1行ずつ記録して、日数ではなく段階で見ます。しつけ教室に通うかどうかで成否は決まらず、犬が覚える場所は家で、毎日5〜10分のほうが効きます。何週間も段階が進まない、家族で合図がそろわない、犬が唸る・隠れる・急に嫌がるなら、動物病院とドッグトレーナーへ相談し、眠れない・犬を見るのがつらいところまで来ているなら、飼い主さまの休み方を先に考えてください。




























