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ケアが嫌いな犬との信頼関係を構築するリラックスポジションについて
公開日:2024年9月5日(木) 更新日:2026年10月6日(火) ケア・お手入れ
この記事の要点
リラックスポジションは、飼い主さまの膝の上で犬が力を抜いて体を預けている姿勢のことで、「服従のポーズ」ではなく、触られると良いことが起きる、を体で覚えるハンドリングの練習です。押さえつけて仰向けにし、暴れなくなるまで待つ方法は、避けるべきとされる対決型の方法なので使いません。教え方は、犬が自分から膝に来る→腕を回す=おやつ・ゆるめる=止まる→横向きか仰向けで舐めるおやつ→1か所を1秒触っておやつ→道具を見せる・当てる→手入れを1つだけ、の6段階で、犬はいつでも降りられます。止めるサインは、おやつを食べなくなる・体が固まる・顔をそむける・白目・唸る。小さな身じろぎには3〜5秒だけ待ち、強まるなら人が降りて弱い段階からやり直します。爪切りは1本だけ、歯磨きは前歯だけ、耳は見える範囲を1回だけ、から広げます。特定の場所だけ嫌がる・急に嫌がるようになった犬は、練習の前に痛みを疑って動物病院へ。唸る・噛もうとする・隠れるなら練習を中止して専門家へ相談します。
「爪を切ろうとすると暴れる」「歯磨きの口を触らせてくれない」「膝の上で仰向けにしても、すぐ起き上がってしまう」。犬のお手入れがうまくいかない相談は、ほとんどが「触られること」でつまずいています。そこで出てくるのが「リラックスポジション」です。飼い主さまの膝の上で犬が力を抜いて背中や体を預けている姿勢のことで、この姿勢ができると、爪切り・歯磨き・耳や目の手入れ・ブラッシングが、犬にも人にも楽になります。
先に結論を書きます。リラックスポジションは「服従のポーズ」ではなく、「触られると良いことが起きる」を体で覚える練習(ハンドリング)です。犬を押さえつけて仰向けにし、暴れなくなるまで待つやり方は、獣医行動学の学会が避けるべき方法に挙げているもので、この記事では使いません。やることは、犬が自分から膝に来る→背中を預ける→1か所を1秒触っておやつ→道具を見せる→道具を当てる、の順に、犬がいつでも降りられる形で進めることです。この記事では、リラックスポジションとは何か、何のために教えるか、始める前に決めること、教え方の手順、爪切り・歯磨き・耳掃除への広げ方、できないときの原因、やってはいけないことを、獣医行動学の専門医が書いた資料と獣医師の資料にそって書きます。なでる場所そのものは犬の撫で方の記事に、抱き上げ方は犬の抱っこの記事に分けています。
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子犬を見るリラックスポジションとは|「服従のポーズ」ではなく、触られることに慣れる練習です
リラックスポジションは、飼い主さまが座った膝の上や足のあいだで、犬が仰向けか横向きになり、体の力を抜いて預けている姿勢のことです。決まった定義がある言葉ではありませんが、獣医行動学の専門医が書いた VCA アニマルホスピタルの解説にある「ハンドリング練習」がそのまま当てはまります。同じ解説は、ハンドリング練習を「触られたり扱われたりするときに、子犬が力を抜いて協力できるようにするための練習」と定義し、犬は動物病院での診察にも家での毎日の手入れにも「扱われる」必要があるので、その必要な世話を犬が安心して受けられるようにするのが目的だ、と書いています。ブラッシング・入浴・獣医師の診察など、これから犬が受けるさまざまな扱いに合わせて練習を組み、それぞれをおいしいおやつと対にして「扱われること=良いこと」の結びつきを作る、というのがその中身です。
ここで、はっきり分けておきたいことがあります。「犬 服従の姿勢」「服従のポーズ」「降参のポーズ」で調べて来られる方が多く、リラックスポジションを「犬に弱点のお腹を見せさせて、飼い主が上だと分からせる練習」と説明しているページもあります。その考え方は、この記事では使いません。米国獣医行動学会(AVSAB)の支配理論についての見解は、行動を専門とする獣医師の標準的な考え方として、支配理論を行動修正の一般的な指針として使うべきではないとし、仰向けに押さえつける(いわゆるアルファロール)のような対決型の方法は、犬が脅かされたと感じれば防御的な攻撃を引き出し得る、としています。犬が膝の上で力を抜くのは、飼い主さまを「上」と認めたからではなく、そこで嫌なことが起きず、良いことが起きると学んだからです。
「仰向け」そのものの読み方も書いておきます。犬が仰向けになるのは「なだめ」のサインが強まった形(体を低くする→前足を上げる→伏せる→仰向けになる、の順で強くなり、排尿を伴うこともある)であり、お腹をなでてもらう誘いと取り違えないこと、お腹をなでられるのを覚えた犬もいるので他のサインで判断することが大切です。つまり犬が自分から仰向けになったからといって、それが「リラックスしている」とは限りません。体が硬い、目をそらしている、あくびをする、なら不安の仰向けです。リラックスポジションで目指すのは、姿勢が仰向けであることではなく、体の力が抜けていることです。横向きでも、お座りのまま背中を預ける形でも構いません。姿勢の見分けは犬のボディランゲージの記事に書いています。
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何のために教えるか|爪切り・歯磨き・耳・目・ブラッシング・診察
リラックスポジションは、それ自体が目的ではありません。目的は、毎日・毎週・毎月やってくる手入れを、犬が嫌がらずに受けられるようにすることです。うちで紹介しているトイプードル、チワワ、ミニチュアダックスフンド、ポメラニアン、マルチーズ、シーズーのような小型犬は、体が小さいぶん膝の上で全部の手入れができる一方で、触られる練習をしていないと、爪切り1回ごとに人も犬も消耗します。獣医師の資料で確かめられた手入れの頻度と、そのときに触る場所を表にします。
| 手入れ | 頻度の目安 | 触られる場所 | 触られる練習をしていないと起きること |
|---|---|---|---|
| 爪切り | 最低でも月に1回。フローリングでカチカチ音がしたら切る時期 | 足先、指の1本1本、爪の付け根 | 足を引く、暴れる。無理に切ると切りすぎや出血につながり、さらに爪切りが嫌いになる悪循環 |
| 歯磨き | 理想は毎食後、1日1回でよく、最低でも3日に1回。乳歯が生え始めたころから | 口の周り、唇をめくる、歯と歯ぐき | 口を触らせない。3歳以上の犬の多くにある歯周病を防げない |
| 耳のチェック | 週に1度は耳の様子を見る。健康な耳なら掃除は基本的に不要で、見える範囲の汚れをコットンで拭くだけ | 耳の付け根、耳のヒダの見える範囲 | 赤み・においに気づけない。嫌がる犬に無理に耳掃除をする必要は無い |
| 目の周り | 目やにが出ていたら、その都度 | 目の下、目頭 | 顔を触らせず、目やにが固まる |
| ブラッシング | 長い毛・絹のような毛・巻き毛の犬種は毎日。毛玉ができやすいのは耳の後ろ・脇の下・後ろ足の裏側 | 背中、脇、内股、耳の後ろ、しっぽの付け根 | 毛玉ができ、ほどくときに痛くて、さらに嫌がる。毛玉はハサミで切らない |
| 動物病院の診察 | 年1回の健診、ワクチン、具合が悪いとき | 全身。口、耳、お腹、足、体温を測る | 診察台で固まる・唸る。診察や注射に備えて、口輪やエリザベスカラーにも慣らしておくとよいでしょう |
この表で、いちばん頻度が高いのは歯磨きで、いちばん嫌がられるのは爪切りです。爪切りは多くの犬にとって怖いもので、爪は敏感な部位であり、飼い主のほうも「切りすぎて痛い思いをさせるのでは」と心配しながら切るものです。だから、リラックスポジションの練習は「爪切りができるようにする」を最終目標に置きつつ、最初の目標は「膝の上で力を抜いて、おやつを落ち着いて食べられる」に置きます。それができれば、歯磨きも耳のチェックも、そこからの枝分かれです。歯磨きの始め方は犬の歯磨きの記事と歯磨きを嫌がる犬の記事に、ブラッシングは犬のブラッシングの記事に分けています。
始める前に決めること|場所・おやつ・時間・止めるサイン
教え方に入る前に、4つ決めておきます。練習の組み立ては「その回の目標を1つ決める→目標を小さな段階に分ける→犬が怖がらない速さに調節する→それぞれの段階を犬の好きなもの(おやつ、注目)と対にする」の4つにまとめられ、練習は短く、楽しく、1回の繰り返しは少なめに、犬が落ち着いて、けれど熱心におやつを食べている状態で行う、のが基本です。これらは、獣医行動学の専門医による解説をもとにまとめました。
| 決めること | 具体的に | 理由 |
|---|---|---|
| 場所 | 飼い主さまが床かソファに座り、膝の上か足のあいだに滑り止めのマットかタオルを敷く。テーブルの上で練習するなら、ゴムのマットで足が滑らないように | 決まった場所で練習すると、犬は「ここでは扱われる。落ち着いて協力すれば良いことが起きる」と予測できます。足が滑らない面を使いましょう |
| おやつ | 舐めて食べるもの(犬用のペースト、ふやかしたフードをつぶしたもの)を、スプーンや舐めるマットにのせる。粒のおやつは小指の爪ほどに小さく | 舐めるおやつは長く続くので、触っているあいだ食べ続けられます。人が2人いれば、1人が食べさせ、1人が触るとよいでしょう |
| 時間 | ごはんのあと、昼寝のあとの、落ち着いているが起きている時間。1回は数分で、2〜3回の繰り返しで終える。1日に何回やってもよい | とても活発なとき、大きな遊びをしたがっているときに落ち着いた練習をしようとすると、人も犬もいら立ちます |
| 止めるサイン | 下の一覧のどれかが出たら、その回はそこで終える。次は1つ前の段階か、もっと弱い形からやり直す | 怖がっているのに続けると、扱われることそのものへの恐怖が残る危険があります |
「止めるサイン」は、この記事でいちばん覚えて帰ってほしいところです。「その練習の強さに犬が居心地の悪さを感じているサイン」として、次が挙げられます。
- 身をよじる、逃げようともがく
- 体を縮める、白目が見える
- クンクン鳴く、キャンと鳴く
- 口を当てる、甘噛みする、噛もうとする
- 体を反らす、顔をそむける、離れていく
- おやつを乱暴に、または興奮して取る
- おやつを食べなくなる
- 練習の場所や道具(ハーネス、ブラシ)を見ると離れる、隠れる
アニコム損害保険の資料にある犬のストレスサイン(あくび、鼻や口の周りを舐める、身震い、体の硬直、うろうろ・きょろきょろと落ち着きがない)も、同じ意味で使えます。とくに「おやつを食べなくなる」と「体が硬くなる(固まる)」の2つは、暴れるより先に出る静かなサインなので、見逃されがちです。しっぽを振っていても、触られると振るのをやめて固まることが多いとされています。固まったら「大人しくなった」ではなく「我慢している」です。その時点で手を止めてください。
リラックスポジションの教え方|膝に来る→預ける→1か所1秒→道具を当てる
手順は6段階です。「触り始めたらおやつが出る、触るのをやめたらおやつが止まる」という組み立てを、そのまま使います。触ることがおやつの「スイッチが入る合図」、手を離すことが「スイッチが切れる合図」になるように繰り返すと、犬は人の手が伸びてくると良いことを期待するようになります。これを何度か繰り返して、手を伸ばしたときに犬がおやつを探すようになったら次へ進みます。どの段階でも、犬はいつでも膝から降りられます。降りたら、その回は終わりです。追いかけて戻さず、次の回は1つ前の段階から始めます。
| 段階 | やること | 次へ進む目安 |
|---|---|---|
| 1 膝に来る | 床に座って足を伸ばし、膝の上(小さい子は足のあいだ)におやつを置いて、犬が自分から乗ってくるのを待つ。乗ったら舐めるおやつを口元に。触らない | おやつを見せると自分から膝に乗ってきて、落ち着いて舐める |
| 2 背中を預ける | 犬が舐めているあいだに、片方の腕をそっと体に回す。ごく軽く寄せて、すぐ腕をゆるめ、同時におやつも止める。腕を回す=おやつ、ゆるめる=止まる、を繰り返す | 腕が伸びてくると、犬がおやつを探す顔をする。腕を回しても体が硬くならない |
| 3 横向き・仰向けへ | おやつで鼻先を誘導して、犬が自分から横に倒れる、または背中を飼い主さまの胸やお腹に預ける形を作る。犬が選んだ姿勢でよく、仰向けにこだわらない。おやつは犬の鼻先について動かす | その姿勢のまま、舐めるおやつを数十秒食べ続けられる。足の力が抜けている |
| 4 1か所を1秒 | 姿勢が保てているあいだに、背中→胸→お腹→足の付け根→足先→耳の付け根→口の周り、の順に、1か所を1秒だけ触っておやつ。1回の練習で2〜3か所まで | どこを触っても、おやつを食べ続けている。足先と口の周りは、いちばん最後 |
| 5 道具を見せる・当てる | 爪切り・歯ブラシ・ブラシを、まず見せるだけでおやつ。次に道具の背中側(ブラシなら毛の無い側)を体に当てておやつ。次に本来の側で1回だけ | 道具を出すと犬が寄ってくる。ブラシを出すと犬が走ってくるなら、進み方がちょうどよいとされています |
| 6 手入れを1つだけ | 爪を1本だけ切る、前歯だけ磨く、耳のヒダを1回だけ拭く。1つできたらおやつで終える。残りは次の日 | 「1つだけ」を数日続けても、道具を見て離れない。ここから本数・時間を少しずつ増やす |
段階2で、犬が少し身をよじることがあります。犬は「効いたこと」を繰り返すので、身をよじると手を離してもらえると早くに学ぶと、じっとする代わりにとてもよく動く犬になってしまうことがあります。だから、小さな身じろぎなら、手を動かさずに3〜5秒待ち、犬が止まったら手をゆるめます。3〜5秒たっても落ち着かず、むしろ動きが強くなる・苦しそうになるなら、その回は終えて、次はもっと弱い形からやり直します。ここが、暴れなくなるまで押さえ続ける方法との違いです。待つのは数秒で、犬が苦しそうなら人のほうが降ります。
段階4の「1か所を1秒」は、アメリカンケネルクラブ(AKC)の解説にある方法とも同じです。飼い主が先に「思いがけない触り方」を少しずつ良いことの合図にしておくとよく、軽く触っておやつ、少しだけ耳を持っておやつ、軽くつまんでおやつ、と少しずつ強くしていき、想定外の触られ方をしたときに唸ったり噛んだりせず、飼い主のほうを見てご褒美を待つようにしておきます。子どもがいる家庭では、子どもが触る前に、この練習を大人が済ませておいてください。
爪切り・歯磨き・耳掃除への広げ方|1本・前歯だけ・見える範囲だけ
膝の上で体を預けられるようになったら、手入れごとに枝分かれさせます。共通するのは、手入れを小さな部分に分けて、犬が全部を続けてできるようになるまで1つずつ練習することです。爪切りについては、「じっとしている」「爪切りを見て良いことを期待する」「足と爪を持たれる」「爪切りの音を聞く」「音なしで爪に道具が当たる」「全部を合わせる」の6つの技術があり、これを身につけるには数週間から数か月かかることがふつうなので、急がないことが大切です。次の表は、獣医行動学の専門医や犬の団体、ペット保険会社の資料をもとにまとめました。
| 手入れ | 分け方(1回の練習で1つ) | 資料で確かめたコツ |
|---|---|---|
| 爪切り | 7日の手順:1日目 爪切りのにおいを嗅がせておやつ→2日目 爪切りを足に軽く当てておやつ→3日目 足に当てて、切らずに音だけ鳴らしておやつ→4日目 もう一度足に当てておやつ→5日目 前足の爪1本の先だけを切る。できても1本で終える→6日目 2本→7日目以降 1日ずつ本数を増やす。切る必要が無い日も、切るふりをして練習する | 白い爪は血管の先から2〜3ミリ離れたところ、黒い爪は床につかない長さが目安。前足は嫌がりやすいので後ろ足から。切りすぎて出血したらティッシュで数分押さえ、止まらなければ止血剤か動物病院へ。指の付け根を親指と人差し指で持って爪を出す |
| 歯磨き | 口の周りを触っておやつ→唇を1秒めくっておやつ→歯磨きシートか指で前歯を1本なぞる→歯ブラシを見せて舐めさせる→前歯だけ磨く→上あごの奥の大きい歯へ。内側は最後 | 力は「歯ブラシで桃の皮を傷つけない程度」、45度の角度で、鉛筆のように持つ。最低3日に1回で歯垢は取れます。歯ブラシの前段階として歯磨きシートが使えます |
| 耳のチェック | 耳の付け根を触っておやつ→耳を1秒めくって見るだけ→湿らせたコットンで見える範囲を1回拭く | 健康な耳は自浄作用があるので、奥まで掃除しない。綿棒を奥に入れない。赤み・大量の耳垢・黒い耳垢は病院へ。嫌がる犬に無理に耳掃除をする必要は無く、触れたら褒めてご褒美を |
| 目の周り | 目の下を指で1秒触っておやつ→ぬるま湯で湿らせたコットンを目の下に1秒当てる→目頭から外へ1回拭く | 顔の正面から手を出さず、横から。目やにが急に増えた・色が変わった・片目だけなら受診 |
| ブラッシング | ブラシを見せておやつ→ブラシの背中側を体に当てる→毛の側で背中を1回→脇・内股・耳の後ろは最後に | まずおやつを食べさせながらブラシの背中側で触り、2〜3回で終えます。犬が食べ続けていれば毛の側へ。食べなくなったら休憩して、ブラシより柔らかいもの(手袋、布)に戻す。毛玉はハサミで切らない |
「1本だけ」「前歯だけ」で終えるのは、遠回りに見えて、いちばん早い道です。5日目に1本切れても「それ以上できそうでも1本だけにする」のが基本で、そのうえで、うまくいけば1週間ほどで爪切りを気にしない犬になることもあります。反対に、嫌がる犬の爪を無理やり切ると、人がけがをする危険だけでなく切りすぎの危険も高まり、さらに爪切りが嫌いになる悪循環になるので、そういう場合は動物病院やトリミングサロンに頼むのがおすすめです。家でやることと、プロに任せることを分けてよいのです。爪切りをプロに任せながら、家では「足を持たれておやつ」だけを続ける、という組み合わせで、次の爪切りが少し楽になります。
できないときの原因|痛み・こわさ・急ぎすぎ・年齢
「仰向けを嫌がる」「膝に乗せると固まる」「触ろうとすると唸る」。うまくいかない理由は、犬の動き方で分かれます。順番は、痛みを先に除いて、次にこわさ、最後に進め方です。
| 犬の様子 | 考えられること | やること |
|---|---|---|
| 特定の場所(腰・足・口・耳)を触ったときだけ嫌がる。抱き上げると鳴く。以前は平気だった | 痛み。ブラッシングや触られることを極端に嫌がるときは、皮膚炎や関節炎、腹痛や腰痛など体調に異常がある場合もあります。2020年の総説では、行動の専門家に紹介された犬の症例の3分の1ほど、多いと8割近くに痛みが関わっていた | 練習をやめて動物病院へ。小型犬はパテラ(ひざのお皿がずれる病気)と腰、歯と耳を先に見てもらう。痛みが取れてから、触られると痛かった記憶を上書きし直す |
| 膝に乗せると固まる。おやつを食べない。白目、あくび、鼻を舐める | こわさ。ふだん活発でおやつが好きな犬が「石像のように立って食べない」のはストレスのサインです | 段階を1つか2つ戻す。膝に乗せず、床でおやつを食べているあいだに背中に手を置くだけから。それでも食べないなら専門家へ |
| 仰向けにすると起き上がる、身をよじる | 仰向けが嫌いなだけで、触られること自体は平気なことが多い | 仰向けにこだわらない。横向き、お座りのまま背中を預ける、伏せた姿勢で、同じ練習をする |
| 膝には乗るが、道具を出すと降りる | 道具に嫌な記憶があります。「練習の道具を見ると離れる・隠れる」も居心地の悪さのサインです | 道具を見せるだけでおやつ、から数日。別の形の道具(ハサミ型→ニッパー型、歯ブラシ→シート)に替えると、記憶が薄いぶん早い |
| 唸る、歯を見せる、噛もうとする、隠れる | 強い苦痛。隠れる・キャンと鳴く・唸る・噛もうとするは極度の苦痛のサインで、続けると扱われることへの恐怖が一生残る危険があるので、練習を中止して専門家に相談してください | 練習をやめる。叱らない。動物病院と、犬の行動を専門にするトレーナーへ。唸りの意味は犬が怒る理由とサインの記事へ |
| 成犬・シニアで、今まで練習したことが無い | 時間がかかるだけで、できないわけではありません。爪切りの練習に数週間から数か月かかるのはふつうです | 子犬と同じ順番を、1段階ずつ長く。シニアは関節の痛みで姿勢がつらいことがあるので、仰向けより横向き・お座りで |
もう一つ、飼い主さまの側の「急ぎすぎ」があります。進めすぎのサインには「おやつをすぐ食べなくなる」「合図で落ち着けなくなる」があり、怖がっている最中に続けると次回の反応がかえって大きくなります。2〜3回うまくいったら、次はほんの少しだけ強める。これが速さの目安です。「今日は5本切れたから、明日は全部」ではなく、「今日は1本で終えられたから、明日は2本」です。
やってはいけないこと|押さえる・仰向けに固定する・叱る・一気にやる
リラックスポジションで、結果が逆になるものを並べます。どれも「早く覚えさせたい」「暴れるのを許すと癖になる」から出るものです。
- 暴れなくなるまで押さえ続ける……小さな身じろぎに待つのは3〜5秒で、それでも落ち着かないなら人のほうが降りて弱い形からやり直します。長く押さえて動かなくなったのは「落ち着いた」ではなく「あきらめた」で、次から練習の場所に来なくなります
- 仰向けにひっくり返して固定する……仰向けに押さえつけるような対決型の方法は、犬が脅かされたと感じれば防御的な攻撃を引き出すことがあります。仰向けは犬が自分で選ぶ姿勢で、人が作る姿勢ではありません
- 唸った・噛もうとしたのを叱る……隠れる・鳴く・唸る・噛もうとする犬は、決して罰したり叱ったりしてはいけません。力や不快に頼る方法は、攻撃的な行動や不安に関わる行動と関連が見られ、覚える力も落とすとされています(2021年の見解)
- 初日に全部の爪を切る、全部の歯を磨く……この手順でも、5日目に1本、6日目に2本です。「できそうだからもう少し」が、翌日の「道具を見たら逃げる」を作ります
- おやつを食べなくなっても続ける……おやつを食べないのは、いちばん静かな「無理」のサインです。食べなくなった時点で、その回は終わりです
- 「上下関係を教える練習」として行う……支配理論を行動修正の指針にすべきではありません。犬が力を抜くのは、順位を認めたからではなく、安全だと学んだからです
- 子どもにやらせる……触られる練習が入る前の犬に、子どもが顔を近づけて触ると危険です。大人が練習を済ませてから、子どもには「触っていいか大人に聞く」を先に教えます(犬と子どもの記事)
「暴れたら放すと、暴れれば済むと覚えてしまうのでは」という心配にも、答えがそのまま使えます。待つのは3〜5秒。その数秒で止まる小さな身じろぎには待ち、止まらない強い抵抗には人が降りる。そして次の回は、犬が動かずに済む弱い段階から始める。犬に「暴れる必要が無い」練習を組むのが、飼い主さまの仕事で、犬に「暴れても無駄だ」と教えるのは目的ではありません。2021年の見解でも、学ぶ側は常に安全だと感じられ、練習から降りられるようにしておくこと、いきなり浴びせる方法は避けることが大切だとされています。
相談の目安
ほとんどの「手入れを嫌がる」は、段階を戻して、1回を短くして、おやつを舐めるものに替えれば、変わっていきます。ただし、次のどれかに当てはまるなら、家庭の手順で粘らずに相談してください。
- 特定の場所を触ると嫌がる、抱くと鳴く、以前は平気だったのに急に嫌がる(まず動物病院)
- 膝に乗せると、おやつをまったく食べない状態が数日続く
- 触ろうとして唸られた、歯が当たった、隠れて出てこない(練習を中止して専門家へ)
- 道具(爪切り・ブラシ・歯ブラシ)を見ただけで逃げる、震える
- 爪が伸びて床につく、歯石が付いた、耳が赤いなど、手入れの遅れが体に出ている(手入れそのものはプロに任せて、家では練習だけ続ける)
相談するときは、「どの段階で、犬がどう動いたか」「おやつを食べていたか」が分かると、その場で具体的な話になります。フローエンスはブリーダー直販で、お迎えのあとも、しつけのご相談を365日お受けしています。「仰向けは嫌がるが横向きなら平気」「爪切りを見せた時点で降りる」といった、その子の様子に合わせた進め方は、ドッグトレーナーへご相談ください。お迎え直後の触られる練習の始め方は犬を迎えた初日の記事と社会化トレーニングの記事に、ドライヤーのように音が加わる手入れはドライヤーを嫌がる犬の記事に分けています。
よくある質問
犬のリラックスポジションとは何ですか?服従のポーズとは違うのですか?
飼い主さまの膝の上や足のあいだで、犬が横向きか仰向けになって体の力を抜いて預けている姿勢のことで、「触られたり扱われたりするときに犬が力を抜いて協力できるようにする練習(ハンドリング)」がそのまま当てはまります。服従のポーズではありません。支配理論を行動修正の指針として使うべきではなく、仰向けに押さえつけるような対決型の方法は犬が脅かされたと感じれば防御的な攻撃を引き出すことがあるとされています。犬が膝の上で力を抜くのは、そこで嫌なことが起きず良いことが起きると学んだからで、順位を認めたからではありません。
リラックスポジションは、いつから、どのくらいの時間練習すればいいですか?
子犬が家に慣れたらすぐ始められます。ごはんのあとや昼寝のあとの落ち着いているが起きている時間が向いていて、とても活発なときは避けます。1回は数分で、2〜3回の繰り返しで終え、1日に何回やっても構いません。練習は短く楽しく、犬が落ち着いて、けれど熱心におやつを食べている状態で進めるのが決まりです。成犬から始めても順番は同じで、時間が長くかかるだけです。爪切りの練習には数週間から数か月かかるのがふつうです。
膝の上で仰向けにすると暴れます。押さえて待てば慣れますか?
押さえ続ける方法は使いません。小さな身じろぎなら手を動かさずに3〜5秒待ち、犬が止まったら手をゆるめます。3〜5秒たっても落ち着かず動きが強くなる・苦しそうになるなら、その回は終えて次はもっと弱い形からやり直します。暴れなくなるまで押さえて動かなくなったのは「落ち着いた」ではなく「あきらめた」で、次から練習の場所に来なくなります。仰向けにこだわる必要も無く、横向きやお座りのまま背中を預ける形で、同じ練習ができます。学ぶ側は常に安全だと感じられ、練習から降りられるようにしておくことが大切です。
練習をやめたほうがいいサインは何ですか?
やめたほうがいいサインには、身をよじる・逃げようともがく、体を縮める・白目が見える、クンクン鳴く、口を当てる・噛もうとする、顔をそむける・離れていく、おやつを乱暴に取る、おやつを食べなくなる、道具を見ると離れる・隠れる、があります。獣医師の資料にある犬のストレスサイン(あくび、鼻や口を舐める、身震い、体の硬直)も同じ意味で使えます。とくに「おやつを食べなくなる」と「体が固まる」は、暴れるより先に出る静かなサインです。固まったら「大人しくなった」ではなく「我慢している」なので、その時点で手を止めて、次は1つ前の段階からやり直してください。
爪切りを嫌がる犬は、どう慣らせばいいですか?
爪切りを小さな部分に分けて、1日1つずつ進めます。手順は、1日目 爪切りのにおいを嗅がせておやつ、2日目 足に軽く当てておやつ、3日目 切らずに音だけ鳴らしておやつ、4日目 もう一度足に当てておやつ、5日目 前足の爪1本の先だけを切って、できてもそこで終える、6日目 2本、7日目以降 1日ずつ本数を増やす、で、切る必要が無い日も切るふりをして練習します。前足は嫌がりやすいので後ろ足から、白い爪は血管の先から2〜3ミリ離れたところ、黒い爪は床につかない長さが目安です。無理やり切ると切りすぎや出血につながり、さらに嫌いになる悪循環になるので、その場合は動物病院やトリミングサロンに頼み、家では「足を持たれておやつ」だけを続けてください。
触られるのを急に嫌がるようになりました。しつけの問題ですか?
先に体を疑ってください。ブラッシングや触られることを極端に嫌がるときは、皮膚炎や関節炎、腹痛や腰痛など体調に異常がある場合もあります。2020年の総説でも、行動の専門家に紹介された犬の症例の3分の1ほど、多いと8割近くに痛みが関わっていました。特定の場所(腰・足・口・耳)を触ったときだけ嫌がる、抱き上げると鳴く、以前は平気だった、のどれかなら、練習をやめて動物病院で診てもらってください。小型犬は膝のお皿の骨、腰、歯、耳を先に見ます。痛みが取れてから、触られると痛かった記憶を、おやつと結びつけて上書きし直します。
触ろうとすると唸ります。どうすればいいですか?
練習をいったんやめて、叱らないでください。隠れる・キャンと鳴く・唸る・噛もうとするは極度の苦痛のサインで、続けると扱われることへの恐怖が一生残る危険があるので、練習を中止して専門家に相談してください。この行動を決して罰したり叱ったりしないことも大切です。力や不快に頼る方法は攻撃的な行動や不安に関わる行動と関連が見られ、覚える力も落とすとされています(2021年の見解)。動物病院で痛みを除いたうえで、犬の行動を専門にするトレーナーと、膝に乗せない・床でおやつを食べているあいだに背中に手を置くだけ、のような弱い段階から組み直します。
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まとめ
リラックスポジションは、飼い主さまの膝の上で犬が力を抜いて体を預けている姿勢のことで、服従のポーズではなく、「触られると良いことが起きる」を体で覚えるハンドリングの練習です。支配理論を行動修正の指針にすべきではなく、仰向けに押さえつける対決型の方法は防御的な攻撃を引き出すことがあるとされているので、暴れなくなるまで押さえる方法は使いません。目的は爪切り(月1回)・歯磨き(1日1回、最低3日に1回)・耳のチェック(週1回)・目の周り・ブラッシング(毎日)・動物病院の診察を、犬が嫌がらずに受けられるようにすることです。始める前に、滑らない場所・舐めるおやつ・ごはんや昼寝のあとの時間・止めるサインを決め、教え方は、犬が自分から膝に来る→腕を回す=おやつ・ゆるめる=止まる→横向きか仰向けで舐めるおやつ→1か所を1秒触っておやつ→道具を見せる・当てる→手入れを1つだけ、の6段階で、犬はいつでも降りられます。小さな身じろぎには3〜5秒だけ待ち、強まるなら人が降りて弱い段階から。爪切りは1本だけ、歯磨きは前歯だけ、耳は見える範囲を1回だけ、から広げます。おやつを食べなくなる・体が固まる・顔をそむける・白目は「無理」のサインで、その回は終わり。特定の場所だけ嫌がる・急に嫌がるようになったなら練習の前に痛みを疑って動物病院へ、唸る・噛もうとする・隠れるなら練習を中止して専門家へ。叱らない、押さえない、初日に全部やらない、上下関係の練習にしない、が守ることです。
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