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犬の褒め方|届く褒めの順位表とタイミング・喜ばない理由と注意点
公開日:2024年9月6日(金) 更新日:2026年10月6日(火) 犬の育て方
この記事の要点
犬にとって「褒める」とは、言葉をかけることではなく、その子が本当に欲しいもの(おやつ・なでる・遊び・散歩)を行動の直後に届けることです。「いい子」という言葉は、おやつやなでることと結びつけて初めて報酬として働きます。研究では、声で褒めるだけでは何もしないのと同じくらいしか犬は留まらず、なでることのほうが好まれ、多くの犬は食べ物をさらに上に置きます。褒めるタイミングは行動の直後で、離れているときは「いいこ」「イエス」のような短い合図(マーカー)で瞬間を切り取り、鳴らしたら必ず報酬を渡します。犬が褒められた姿勢のまま受け取れる位置に渡します。何で褒めるかは犬ごとに違うので、おやつ・なでる・声・遊び・散歩を試して順位表を作り、難しい場面ほど上位を使います。頭の上をなでるのはほとんどの犬が好まず、逆効果になります。「褒めても喜ばない」のは、言葉が報酬と結びついていない・なで方が嫌い・その気でない・順位が低い・回数が少ない、のどれかです。要求に応えて渡す・理由なくおやつを渡す・高い声で興奮させる・頭をなでる、は褒めになりません。おやつは新しいことは毎回、覚えたらときどきに切り替え、声となでるを残します。何を渡しても受け取らない、おやつを食べない、なでると唸るなら、体調や不安を疑って動物病院・ドッグトレーナーへ。
「いい子だね」と言っているのに、犬はこちらを見もしない。なでてあげたのに、するりと逃げる。おやつのときだけ言うことを聞く。犬の褒め方を調べる方の多くは、「褒めているつもりなのに、犬に届いていない気がする」ところから来られています。この記事は、その「届いていない」を直します。
先に結論を書きます。犬にとって「褒める」とは、言葉をかけることではなく、その子が本当に欲しいもの(おやつ・なでる・遊び・散歩)を、行動の直後に届けることです。「いい子」という言葉そのものは、おやつやなでることと結びつけて初めて、褒め言葉として働きます。この記事では、褒めるとは何か、褒めるタイミングと「いいこ」の一言の使い方、何で褒めるか(ご褒美の順位表)、「褒めても喜ばない」理由、場面別の褒め方、褒め方の注意点、おやつを減らしていく順番、相談の目安を、獣医行動学の専門医が書いた資料や犬の研究にそって書きます。叱り方は犬の叱り方の記事に、なでる場所の詳しい話は犬の撫で方の記事に、合図の言葉の決め方はコマンド一覧の記事に分けているので、ここは「褒め方」に絞ります。
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子犬を見る犬の褒め方の基本|犬が欲しいものを行動の直後に届けること
「犬 褒める しつけ」で調べて来られる方へ。まず、しつけの中で「褒める」が何をしているのかを書きます。アメリカンケネルクラブ(AKC)の解説は、犬は自分にとって報われる行動を繰り返す、たとえばおすわりをしておやつをもらった犬は次もおすわりをしやすくなる、だから望ましい行動に報酬を与える「正の強化」の練習が効くのだ、と説明しています。VCAアニマルホスピタル(アメリカの動物病院グループ。こちらの解説は獣医行動学の専門医が執筆)も、学習は行動とその結果の関係で成り立ち、行動のあとに良いことが加わればその行動は増える、と書いています。つまり、しつけの中での「褒める」は、犬に気持ちを伝えることではなく、「今の行動は正解だった」と犬が分かる形で、犬が欲しいものを届けることです。
ここで大事なのは、何が「報酬」になるかを決めるのは人ではなく犬だ、ということです。犬が報酬と感じるものは犬によって違い、同じ犬でも時間帯で変わります。頭をなでられること・遊び・おもちゃ・散歩・おやつ、どれもあり得ますが、鍵はその犬のやる気を引き出すものを選ぶことです。人がいちばんのご褒美だと思うビスケットが犬にとって退屈なら何も強化されません。犬の側から見て本当に報われるものを選ぶことが大切です。「褒めているのに効かない」の大半は、犬が欲しくないものを「褒め」として渡しているか、渡すのが遅いか、のどちらかです。
そして、「いい子」という言葉は、最初から報酬ではありません。犬は褒め言葉を好きになるよう教えられる必要があり、「いい子」と明るい声で言いながらおやつを渡せば、犬は褒め言葉が良いものだと学び、それが報酬として使えるようになります。これは研究でも裏づけられています。2015年に発表された米国の研究は、保護施設の犬と家庭犬に、なでることと声で褒めることのどちらを選ぶか調べ、どの群でも犬はなでられることを選び、声で褒めるだけでは、何もしないのと同じくらいしか犬は近くに留まらなかったと報告し、「声での褒めは、あらかじめ条件づけが要る」と結論しています。同じ研究で、なでることには8回の3分間セッションを通して飽きが見られませんでした。飼い主さまが「いい子」と言って犬が喜ぶのは、その言葉のあとに良いことが続いてきた家の犬だけです。
もう1つ、褒めるしつけの土台になる考え方を書いておきます。米国獣医行動学会(AVSAB)の2021年の見解は、しつけには報酬に基づく方法だけを使うべきで、罰を使った方法は不安に関わる行動や攻撃的な行動と関連が見られ、効果の面でも劣る、としています。嫌なことで教えられた犬はそれを教える人と練習そのものに結びつけて覚え、学ぶことを楽しみにしなくなり新しいことを試さなくなります。逆に、報酬で教えられた犬は間違いを恐れずに自分から試すようになります。「褒めて育てる」は優しい選択肢ではなく、犬が自分から動くようになる方法です。「甘やかし」との違いは、この記事の注意点の章で書きます。
新しく載った子犬
褒めるタイミング|行動の瞬間に。「いいこ」の一言を合図にします
「犬 褒め方」で調べて来られる方がいちばん先に直せるのが、タイミングです。報酬は行動の直後でなければなりません。少しでも遅れると、渡している間に犬は別の行動をしていて、そちらが強化されてしまいます。たとえば、「おすわり」と言って座らせ、犬が立ち上がったり吠え始めたりしたときに「いい子」と言っておやつを渡せば、褒めたのは座ることではなく、立つこと・吠えること・「座る→立つ→吠える」の流れになります。トイレを外で済ませた犬を家に呼び戻して足を拭いてからおやつを渡せば、褒めたのは「家に戻って足を拭かれたこと」になります。アニコム損害保険の「みんなのどうぶつ病気大百科」の解説も、時間がたってから褒めても犬は何を褒められたのか結びつけられず、うまくいったら間を空けずにすぐ褒めるのがポイントだ、としています。
ただ、「直後」には限界があります。おすわりならお尻が床についた瞬間に渡せますが、離れた場所でマットに伏せた、名前を呼んだら振り向いた、来客のときに飛びつかず4本足で立っていた、というときは、おやつを渡すまでに何秒かかかります。その何秒かを埋めるのが「マーカー」です。マーカーとは犬が正しいことをした瞬間を切り取る音や言葉で、クリッカーでも、指を鳴らす・舌を鳴らす・「イエス」「グッド」のような短い言葉でもよく、ふだんの会話と区別できる音であれば何でもかまいません。結びつけ方は、マーカーを出してすぐおやつ、を10〜20回くり返すだけで、犬は「その音のあとに良いことが来る」と学びます。以後は、正しい瞬間にマーカーを出し、マーカーを出したら必ず報酬を渡す、この2つを守ります。
「いい子」をマーカーにしてもよいのか、という疑問があると思います。褒め言葉でも同じことはできますが、褒め言葉はふだんから犬に向かって使っているので、練習の中で「今のが正解」を伝える合図としては明確さで劣ります。だから、練習用の短い合図(「いいこ」「イエス」のような、ふだんの会話では使わない言い方)と、日常の「かわいいね」「いい子だね」を分けておくと、犬にとって分かりやすくなります。前者は「正解の瞬間を切り取り、必ず報酬が続く」、後者は「気持ちを伝える声かけで、報酬が続くとは限らない」。この2つを混ぜると、犬は「いい子」と言われても次に何が来るか分からなくなり、「褒めても喜ばない」につながります。マーカーの詳しい使い方と、覚えたあとに要らなくなることはおすわりの教え方の記事にも書いています。
タイミングと同じくらい大事なのが「渡す位置」です。渡すのが遅いのと同じように、渡す位置が悪くても犬は混乱します。おすわりのような静止の姿勢を教えるなら、犬が座ったままの姿勢で受け取れるように渡し、立ち上がらないと取れない位置で渡すと、犬は座ることと歩くことのどちらが褒められたのか分かりません。マットに伏せている犬には、投げて渡すか、そこまで行って渡します。褒められたい姿勢のまま受け取れる位置に渡す、が基本です。
何で褒めるか|おやつ・なでる・声・遊び・散歩の順位表を作ります
「犬 褒め方 撫で方」「犬 褒めると喜ぶ」で調べて来られる方へ。褒めるものは1つではなく、犬ごとに順位があります。犬が喜ぶものを全部書き出して、いちばん興奮するものから順に並べ、その犬の「ご褒美の順位表」を作るとよいでしょう。難しい課題ほど上位のご褒美を使い、簡単なことにはフードの粒のような下位のもので済ませる、ボールを追うのがいちばん好きな犬ならボールが最上位、フードの粒は食事のときにしか興奮しない犬なら最下位、という考え方です。犬は一頭ずつ違い、ある犬には最高のご褒美であるボール遊びが別の犬には無意味なこともあります。2026年の記録でも、庭ではビスケットで足りても、他の犬がいる場所ではフリーズドライの肉やチーズのような上位のものが要ることがあります。
「食べ物より、なでたり声をかけたりで褒めたい」という飼い主さまへ。研究の結果を、そのまま書きます。2012年に発表された米国の研究は、保護施設の犬・家庭犬・人の手で育てたオオカミの3つの群で、鼻先で手に触れるという簡単な行動に対して、人が短く相手をすることと小さな食べ物のどちらが報酬として効くかを比べ、どの群でも、人が短く相手をするだけでは食べ物に比べて報酬としてほとんど効かなかったと報告しています。2014年の研究では、食べ物となでることを同時に選べる場面で、家庭犬は食べ物がすぐ手に入るあいだは食べ物を選び、ただし食べ物が出にくくなるほどなでるほうへ移る犬が増え、なでる相手が飼い主か知らない人か、場所が慣れた場所かどうかでも、なでるほうに使う時間は変わりました。そして2015年の研究では、上に書いたとおり、なでることは声で褒めることより明らかに好まれ、声だけでは何もしないのと同じくらいでした。この表は、こうした研究の結果と、獣医行動学の専門医による解説をもとにまとめました。
| ご褒美 | 研究・資料で言えること | 使いどころ |
|---|---|---|
| おやつ・食べ物 | ほとんどの犬で、人が相手をするより報酬として強く効きます(2012年・2014年の研究)。空腹に近いほど効き、目新しい食べ物のほうがさらに効きます | 新しいことを教えるとき、気が散る場所、難しい課題。小さくちぎって回数を稼ぐ |
| なでる | 声で褒めるより明らかに好まれ、8回の3分間セッションでも飽きが見られませんでした(2015年の研究)。ただし犬がその気のときに限り、その気でないときは恐怖や不安の元になります | 落ち着いているとき、覚えたあとの練習。触られて嬉しい場所に限る(次の表) |
| 声で褒める | それだけでは報酬になりません(2015年の研究)。おやつやなでることと結びつけて初めて働きます | おやつ・なでるとセットで使い、結びついてから単独で。マーカーとは分ける |
| 遊び(引っぱりっこ・ボール) | おもちゃがそもそも大好きな犬には上位のご褒美です。そうでない犬は、遊びを報酬にするための練習が先に必要です | 呼び戻し・もってこいのように「動く」練習のあとに。おやつで興奮しすぎる子にも |
| 散歩・においを嗅ぐ・外に出る | 「環境の報酬」です。合図に応えたら解除の言葉で自由に嗅がせる、という形で日常に組み込めます | 玄関で座ったらドアが開く、道の端で待てたら嗅ぎに行ける、のように「暮らしの中の褒め」に |
「なでる」を使うなら、場所が要ります。多くの犬はあごの下・耳の付け根・のどから胸にかけてを触られるのを好みます。頭・マズル(口)・足先は急所で、犬は上から迫ってくるものを怖がるので頭をなでられるのはあまり好きではなく、後ろから近づいていきなりしっぽを触るのも嫌がります。頭の上をポンとなでるのは「ご褒美」のつもりでも、ほとんどの犬はその触り方を好まず、それを嫌う犬なら、頼んだことをすると嫌なことが起きると結びつけて、次からむしろ言うことを聞かなくなります。褒めるつもりのなで方が、逆の働きをしていることがある、ということです。喜ぶ場所と嫌がる場所の見分け方は犬の撫で方の記事にまとめています。
順位表の作り方は簡単です。家にあるおやつ・フード・おもちゃ・なで方・遊びを1つずつ試し、犬が「次を待つ顔」をするか、体が向くか、で上・中・下に分けます。その順位は場所と場面で変わるので、家の中用と散歩用で2列あってかまいません。表が1つできると、この記事のあとの章(喜ばないとき・場面別・おやつを減らす)が全部この表を土台に進みます。
「褒めても喜ばない」5つの理由|言葉・なで方・その気でない・順位・回数
「犬 褒めても喜ばない」で調べて来られる方へ。喜ばないのは、犬が飼い主さまを嫌っているからでも、褒められて嬉しくない性格だからでもありません。理由は5つのどれかで、どれも直せます。下の表は、獣医行動学の専門医による解説と犬の団体の資料をもとにまとめました。
| 理由 | よくある形 | 直し方 |
|---|---|---|
| ①褒め言葉が報酬と結びついていない | 「いい子」と言っても犬が見ない。声をかけるだけで、そのあとに何も続かないことが多い | 「いい子」の直後におやつかなでることを、しばらく毎回続けて結びつけます。声だけでは何もしないのと同じ、という研究の結果を前提にします |
| ②なで方が嫌い | なでると顔をそむける、耳を倒す、するりと抜ける。頭の上・マズル・足先を触っている | あごの下・耳の付け根・胸に変えます。上から手を下ろさず、横か下から。犬が離れたらそれ以上追いません |
| ③その気でない・興奮している・怖がっている | 散歩中や来客中は何を渡しても乗ってこない。または高ぶって受け取れない | なでることはその気のときは良い報酬ですが、その気でないときは恐怖や不安の元になります。落ち着いた時間・場所に戻します。子犬が合図に乗らない原因には「疲れている・興奮している・怖がっている・具合が悪い」もあります |
| ④ご褒美の順位が低い | 家ではフードで喜ぶのに、外では見向きもしない | 場面が難しいほど上位のご褒美に上げます。空腹に近い時間帯に練習するのも効果的です |
| ⑤褒めてもらう機会が少なすぎる | できたときだけ褒めようとして、1回の練習で1〜2回しか褒めていない | 気が散る場所では「ご褒美の頻度」を上げて、自分と練習を周りより面白くします。小さくちぎって回数を増やします |
①について、もう少し書きます。声で褒めることが「何もしないのと同じ」というのは、犬が人の言葉を分かっていない、という意味ではありません。2016年に発表されたハンガリーの研究は、訓練を受けた家庭犬をMRIで調べ、褒め言葉を褒める調子で言ったときにだけ脳の報酬に関わる部位が強く働き、褒め言葉を平坦な調子で言ったときや、意味の無い言葉を褒める調子で言ったときには働かなかった、と報告しています。犬は「言葉」と「調子」を別々に聞いていて、両方がそろったときに褒められたと感じている、ということです。だから、いつもと同じ平坦な声で「いい子」と言っても届きにくく、逆に言葉だけ変えて調子が怒っていれば、褒めにはなりません。声で褒めるなら、決めた言葉を、決めた明るい調子で、そしてそのあとに良いことを続ける、の3つがそろって初めて、犬にとっての褒め言葉になります。
もう1つ、よく聞く「うちの子はプライドが高いから褒めても喜ばない」について。犬の行動を大規模に調べた2022年の研究(飼い主アンケート18,385頭)では、犬種で説明できるのは個体の行動の違いのうち約9%で、同じ犬種の中の差のほうが大きい、と報告されています。「プライドが高い犬種だから」ではなく、その子の順位表がまだ分かっていないだけです。上の5つを1つずつ潰してください。犬の側の「喜んでいるサイン」(しっぽの位置、耳、体の向き)の読み方は犬のボディランゲージの記事に一覧があります。
場面別の褒め方|おすわり・トイレ・呼び戻し・静かなとき・来客
同じ「褒める」でも、場面で「何を」「いつ」「どこで」が変わります。「渡す速さ」「渡す位置」「ご褒美の順位」を場面に当てはめ、獣医行動学の専門医や犬の団体の解説を参考に、次の表にまとめました。
| 場面 | 褒める瞬間 | 何で・どこで | やりがちな失敗 |
|---|---|---|---|
| おすわり・伏せ | お尻(伏せなら体)が床についた瞬間にマーカー | 座ったままの口元におやつ。立ち上がらせない | 立ち上がってから渡す→「立つ」を褒めている |
| トイレ | 排泄が終わった瞬間、その場で | トイレのそばで、上位のおやつ。静かな声で | 部屋に戻ってから渡す→「戻ること」を褒めている。高い声で騒ぐと排泄が途中で止まる |
| 呼び戻し(おいで) | 犬が足元に着いた瞬間 | 上位のおやつか遊び。来たあとに嫌なこと(爪切り・ケージ)を続けない | 来た犬をつかまえて終わりにする→「来ると捕まる」になる。詳しくは呼び戻しの記事 |
| 静かにしていたとき・マットで伏せていたとき | 飼い主さまが「気づいた」瞬間。犬が何もしていない時間が褒めどき | そっと近づいて、伏せたままの位置におやつを置く。声は低く小さく | 吠えたときだけ相手をし、静かなときは放っておく→吠えが「注目を得る手段」になる。マットで静かにしている犬を「捕まえて(キャプチャー)」褒める方法もあります |
| 来客で落ち着いていたとき | インターホンが鳴っても4本足が床についている瞬間 | 玄関から離れた場所で、おやつ。来客にも同じ形で渡してもらう | 飛びついたあとに「おすわり」させて褒める→飛びつき→座るの流れが強化される。飛びつく前に褒める |
| 散歩で横を歩けたとき | 横に付いた一歩ごと(最初は毎歩) | 腰の横の低い位置で、歩きながら小さく渡す | 15歩に1回では周りの刺激に負ける。最初は頻度を上げる |
| 触られる練習(歯・足・耳) | 触っているあいだ、犬がじっとしていた数秒 | 触りながら、もう片方の手でおやつを舐めさせる | 嫌がってから褒める→「嫌がると終わる」になる。嫌がる前に短く終える |
表の4行目が、いちばん見落とされる褒めどきです。吠えている犬・飛びついている犬・ドアを引っかいている犬にどんな形でも注目を与えると、その行動を褒めたことになります。落ち着かせようとして食べ物を少し渡す・なでる・遊ぶのは、問題の行動を強化しているだけです。逆に言えば、何も起きていない静かな時間こそ、褒める材料が転がっている時間です。食卓でねだる代わりにマットで静かに伏せている犬を見たら、その瞬間にマーカーを出して褒める「キャプチャー」もおすすめです。1日に何度か、犬が静かにしているところへそっと行っておやつを置く。それだけで「静かにしていると良いことが起きる」が家の中に入ります。
子犬について1つ。「子犬 褒め方」で調べて来られる方へ。子犬は成犬より短い時間しか集中できないので、練習は5〜10分で切り、うまくいかない日は覚えていることを1つやらせてたっぷり褒めて終えてください。生後8週ごろの子犬でも、「いい子」の直後におやつ、を毎回続けることで褒め言葉は育ちます。逆に、子犬のうちに「いい子」と言うだけで何も続かない日が重なると、その言葉は育ちません。月齢ごとに何を教えるかはしつけはいつからの記事に分けています。
褒め方の注意点|褒めすぎ・高い声・おやつ頼み・要求に応えた褒め
「犬 褒める 注意点」「犬 褒める 良い」で調べて来られる方へ。褒めることに「やりすぎ」はあるのか。あります。ただし、それは「褒める回数が多すぎる」のではなく、「褒めるものが、褒めたくない行動に届いている」ときです。
- 要求に応えて「褒めて」いる……鳴いたからおやつ、飛びついたからなでる、吠えたから声をかける。これらは全部その行動への報酬で、しかも「ときどき」応えるほど行動は強く長く残ります。報酬は行動で稼いだときにだけ渡すものです。要求吠えの直し方は犬の要求吠えの記事へ
- 理由なくおやつを渡している……渡す理由が無いならおやつを渡さないことが大切です。カロリーが増えるだけで何も達成しません。価値のあるものを渡すときは必ずその前に強化したい行動を置きます。「かわいいから」のおやつを、1回の「おすわり」に変えるだけで、同じ量のおやつが全部しつけに変わります
- 高い声で興奮させている……なでる褒め方は2つに分かれます。首筋をなで回したり体の横を軽く叩いたりするのは脈拍を上げて集中力を上げる褒め方で、これから運動するときに向きます。落ち着かせたいときは、毛並みに沿って一方向にゆっくりなで下ろしましょう。大きな声は興奮と不安を上げるので、落ち着いて応えることを教えるときには逆効果です。トイレ・静かにしていたとき・来客のときは、低く小さい声で
- タイミングが遅い・渡す位置が違う……前の章のとおり。犬が「別のこと」を始めてから渡していないかを、渡す瞬間の犬の姿勢で確かめてください
- おやつだけに頼っている……おやつは最も確実な報酬ですが、順位表におやつしか無いと、おやつが無い場面で何も渡せません。声・なでる・遊び・環境の報酬を、おやつと組み合わせて育てておきます(次の章)
- おやつの量が主食を圧迫している……犬は体が小さいので、少しあげたつもりでもカロリーが過剰になりやすいです。おやつは1日の摂取カロリーの10%以内にして、主食をその分減らしましょう。褒める回数を増やしたいなら、おやつを小さくちぎる、フードの粒を練習に回す、のほうが先です
- 褒めてから「ダメ」を続けている……できたので褒め、そのあと別のことで叱る、が1回の流れの中で起きると、犬にとっては褒めが消えます。いら立ちを見せると、犬は閉じて学ぶのをやめてしまいます。練習は良いところで終えましょう
「褒めて育てると、わがままになるのでは」という心配について。なりません。ただし、上の1つ目と2つ目を守ったときに限ります。報酬が「行動で稼いだときにだけ」渡されていれば、犬は「何をすれば良いことが起きるか」を自分で考える犬になります。報酬が「要求したときに」渡されていれば、犬は「どう要求すれば通るか」を考える犬になります。褒めるものと回数は同じでも、渡す順番が逆なだけです。家族のあいだで渡す順番がばらばらになる問題は家族でルールが統一できないときの記事に分けています。
おやつを減らしていく順番|毎回→ときどき。声となでるを残す
「おやつが無いと言うことを聞かない犬になるのでは」という心配についても、獣医行動学の資料に手順があります。報酬を渡す頻度は「スケジュール」と呼ばれ、2つに分けられます。1つ目は毎回渡す(連続強化)で、新しいことを教えるときに使います。ただし毎回渡し続けると、渡すのをやめた途端に行動も止まりやすくなります。2つ目はときどき渡す(間欠・変動)で、3回に1回、次は2回続けて、次は5回やって1回、のように予測できない形で渡すと、行動は強くなり長く続きます。だから、新しいことは毎回渡して教え、安定して応えるようになったらすぐ、ときどきに切り替える、というのが基本の手順です。覚えたあとは「なでる・声で褒める」のような軽い報酬に切り替え、上位のご褒美はときどきだけ渡すとよいでしょう。段階を踏んで減らすと、おやつが無くても応える犬になります。次の表にまとめました。
| 段階 | おやつ | 声・なでる | 次へ進む目安 |
|---|---|---|---|
| 1 教えている | できるたびに毎回。マーカーのあとに必ず | おやつと同時に「いいこ」。なでるのは落ち着いているときだけ | 合図1回で、毎回のように応える(「安定して応える」状態) |
| 2 手の中のおやつを消す | 誘導は空の手で、おやつは反対の手やポケットから出します | 同じ | 空の手の動きだけで動ける |
| 3 ときどきに切り替える | 2回に1回→3回に1回→予測できない形に。渡さない回は声となでるだけ | 「いいこ」は毎回。なでるは犬がその気のときに | 渡さない回でも動きが崩れない |
| 4 上位のご褒美を「たまに」 | ふだんはフードの粒か無し。とても良くできたときだけ上位のおやつや遊びを「まとめて」(小さなジャックポット)渡します | 声となでるが主役 | おやつが見えなくても応える |
| 5 環境の報酬に置き換える | 散歩前の「おすわり」→ドアが開く、道端の「待て」→嗅ぎに行ける | 解除の言葉「よし」で自由にする | 暮らしの中で、合図と報酬が自然に回っている |
2つ、注意があります。1つ目、「報酬が効かない」原因の2番目に、犬が十分に覚える前に報酬を減らしてしまうことがあります。段階3に進むのは、段階1の目安(合図1回で、毎回のように応える)を満たしてからです。早く減らすほど、行動は崩れます。2つ目、段階2の「手の中のおやつを消す」を飛ばすと、犬はおやつが見えるときだけ動く犬になります。食べ物で誘導したまま空の手の合図や言葉に置き換えないと、犬は手の合図や言葉ではなく「ご褒美が見えること」に応えるようになってしまいます。おやつを消す3段階(そのまま渡す→反対の手から→空の手で誘導)はおすわりの教え方の記事に書いています。
そして、最後に残るのは声となでることです。ここまで来ると、最初は「何もしないのと同じ」だった「いい子」の一言が、何百回ものおやつと結びついて、それだけで犬が振り向く言葉になっています。毎回「特別な」報酬を渡す必要はありませんが、良い行動には必ず、声かなでるだけでもよいから応えることが大切です。褒めるしつけのゴールは「おやつが要らなくなること」ではなく、「声となでるが、おやつと同じくらい効く関係になること」です。
やってはいけないことと、相談の目安
- 褒めた直後に嫌なことを続ける……呼んで褒めてから爪切り・ケージ・お風呂。褒めがその予告になり、次から来なくなります。嫌なことをする日は、褒めの回とは分けます
- 頭の上をなでて「褒めたつもり」……ほとんどの犬は好まず、嫌う犬では言うことを聞かなくなる方向に働きます。あごの下・耳の付け根・胸に
- 興奮している犬を高い声でさらに褒める……大きな声は興奮と不安を上げます。興奮している犬には、落ち着いた瞬間を低い声で。興奮の下げ方は子犬を落ち着かせる記事へ
- 褒めない代わりに叱る……罰を使った方法は不安と攻撃に関連し、効果でも劣ります。叱らない代わりに何を褒めるかを決めます(犬の叱り方の記事)
- 褒め言葉を家族で変える……「いいこ」「グッド」「えらい」が人ごとに違うと、結びつきが分散します。練習用の合図は1つに
- おやつを見せてから頼む……おやつが見えることが合図になります。合図→行動→マーカー→おやつ、の順に
相談の目安です。順位表を作って、タイミングと位置を直し、声とおやつを結びつけ直しても、何を渡しても犬が受け取らない。おやつを目の前にしても顔をそむける、食べない。なでようとすると身を固くする、唸る。褒めると逆に興奮して噛む、飛びつく。そういうときは、褒め方の問題ではなく、体調・痛み・不安・過去の経験が関わっていることがあります。おやつを食べない・触られるのを嫌がるが急に始まったなら動物病院へ、なでると唸る・褒めると噛むならドッグトレーナーへ。フローエンスはブリーダー直販で、お迎えのあとも、しつけのご相談を365日お受けしています。「何を渡すと犬がどう反応するか」の順位表があると、相談はその場で具体的になります。相談のタイミングに迷ったら、ドッグトレーナーに相談するタイミングの記事も参考にしてください。
よくある質問
犬の褒め方の基本は何ですか?
「褒める」とは、犬が本当に欲しいものを、正しい行動の直後に届けることです。行動のあとに良いことが加わればその行動は増え、何が報酬になるかは犬によって違い、鍵はその犬のやる気を引き出すものを選ぶことです。人がいちばんのご褒美だと思うビスケットが犬にとって退屈なら、何も強化されません。「いい子」という言葉は最初から報酬ではなく、明るい声で言いながらおやつを渡すことをくり返して、犬に褒め言葉を好きになってもらう必要があります。届ける・直後・その子が欲しいもの、の3つがそろって褒めになります。
犬を褒めるタイミングはいつですか?
正しい行動をした瞬間、その直後です。報酬は行動の直後でなければならず、遅れると渡している間に犬は別の行動をしていてそちらが強化されてしまいます。おすわりのあと立ち上がってから渡せば「立つ」を褒めたことになり、トイレのあと家に戻って足を拭いてから渡せば「戻ること」を褒めたことになります。離れた場所での行動や来客のときのように、すぐ渡せないときは「いいこ」「イエス」のような短い合図(マーカー)で瞬間を切り取ります。合図のあとにすぐおやつを10〜20回くり返せば犬はその合図が報酬の予告だと学ぶので、以後は正しい瞬間に合図を出し、出したら必ず報酬を渡します。犬が褒められた姿勢のまま受け取れる位置に渡すことも同じくらい大事です。
犬を褒めても喜びません。なぜですか?
理由は5つのどれかで、どれも直せます。①「いい子」という言葉がおやつやなでることと結びついていません。2015年の研究では、声で褒めるだけでは何もしないのと同じくらいしか犬は近くに留まらず、声での褒めはあらかじめ条件づけが必要です。②なで方が嫌い。頭の上をなでるのはほとんどの犬が好まず、嫌う犬は頼んだことをすると嫌なことが起きると結びつけて、言うことを聞かなくなります。あごの下・耳の付け根・胸に変えてください。③その気でない・興奮している・怖がっている・具合が悪い。なでることはその気のときは良い報酬ですが、その気でないときは恐怖や不安の元になります。④場面に対してご褒美の順位が低い。⑤褒める回数が少なすぎる。順位表を作って、1つずつ潰してください。
犬はおやつ・なでる・声のどれで褒めるのがいちばん効きますか?
研究では、多くの犬で食べ物がいちばん強く、次になでること、声だけは最も弱い、という順です。2012年の米国の研究(保護施設の犬・家庭犬・人の手で育てたオオカミ)では、人が短く相手をするだけでは食べ物に比べて報酬としてほとんど効きませんでした。2014年の研究では家庭犬は食べ物が手に入るあいだは食べ物を選び、2015年の研究では、なでることは声で褒めることより明らかに好まれ、声だけでは何もしないのと同じくらいでした。ただし犬ごとに順位は違います。犬が喜ぶものを全部書き出して順位表を作り、難しい課題ほど上位のご褒美を使うとよいでしょう。声で褒めることは、おやつやなでることと結びつけて育てれば、それだけで犬が振り向く言葉になります。
犬は「いい子」と言われて嬉しいと感じますか?人の言葉が分かりますか?
言葉と調子がそろったときに、褒められたと感じます。2016年に発表された研究は、訓練を受けた家庭犬をMRIで調べ、褒め言葉を褒める調子で言ったときにだけ脳の報酬に関わる部位が強く働き、褒め言葉を平坦な調子で言ったときや、意味の無い言葉を褒める調子で言ったときには働かなかった、と報告しています。犬は言葉と調子を別々に聞いていて、両方がそろって初めて褒めになる、ということです。ただし2015年の研究では、声で褒めるだけでは何もしないのと同じくらいしか犬は近くに留まりません。犬は褒め言葉を好きになるよう教えられる必要があります。決めた言葉を、決めた明るい調子で、そのあとに良いことを続ける、の3つがそろって、犬にとっての褒め言葉になります。
褒めすぎるとわがままになりませんか?褒めるときの注意点は?
褒める回数が多いこと自体は問題になりません。問題になるのは、褒めるものが「褒めたくない行動」に届いているときです。鳴いたからおやつ、飛びついたからなでる、吠えたから声をかける、は全部その行動への報酬で、ときどき応えるほど行動は強く長く残ります。報酬は行動で稼いだときにだけ渡し、渡す理由が無いおやつは渡さないようにします。もう1つは声の高さで、大きな声は興奮と不安を上げるので、トイレ・静かにしていたとき・来客のときは低く小さい声で褒めます。頭の上をなでる、タイミングが遅い、おやつを見せてから頼む、褒めた直後に嫌なことを続ける、も褒めになりません。おやつは1日の摂取カロリーの10%以内にして主食を減らします。
おやつが無いと言うことを聞かない犬になりませんか?おやつはどう減らせばいいですか?
減らす順番を守れば、なりません。新しいことは毎回渡して教え、安定して応えるようになったらすぐ「ときどき渡す」に切り替えます。3回に1回・次は2回続けて・次は5回に1回のように予測できない形で渡すと行動は強くなり長く続き、覚えたあとはなでる・声のような軽い報酬に切り替えて上位のご褒美はときどきだけにします。報酬が効かない原因には「犬が十分に覚える前に報酬を減らしてしまうこと」と「食べ物で誘導したまま空の手の合図や言葉に置き換えないこと」があるので、合図1回で毎回のように応えるようになってから減らし、その前に手の中のおやつを消しておきます。最後に残るのは声となでることで、良い行動には必ず声かなでるだけでもよいから応え続けてください。
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まとめ
犬にとって「褒める」とは、言葉をかけることではなく、その子が本当に欲しいものを正しい行動の直後に届けることです。何が報酬になるかは犬が決め、研究では多くの犬で食べ物がいちばん強く、次になでること、声だけでは何もしないのと同じくらいで、褒め言葉はおやつやなでることと結びつけて育てるものです。2016年の研究では、褒め言葉を褒める調子で言ったときにだけ犬の脳の報酬に関わる部位が働きました。タイミングは行動の直後で、すぐ渡せないときは「いいこ」「イエス」のような短い合図で瞬間を切り取り、合図のあとに必ず報酬を渡し、褒められた姿勢のまま受け取れる位置に渡します。おやつ・なでる・声・遊び・散歩を試して順位表を作り、難しい場面ほど上位を使い、なでるならあごの下・耳の付け根・胸で、頭の上は避けます。褒めても喜ばないのは、言葉が結びついていない・なで方が嫌い・その気でない・順位が低い・回数が少ない、のどれかです。静かにしているとき・来客で落ち着いていたときこそ褒めどきで、吠えや飛びつきに注目を与えるとそちらが褒められます。要求に応えて渡す・理由なくおやつを渡す・高い声で興奮させる・褒めた直後に嫌なことを続ける、は褒めになりません。おやつは新しいことは毎回、合図1回で毎回のように応えるようになったら、ときどきに切り替え、声となでるを残します。何を渡しても受け取らない、おやつを食べない、なでると唸るなら、体調や不安を疑って動物病院やドッグトレーナーへ相談してください。
























